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五章 episode2



 たとえ、どれほど憎んでいたとしても。
 その死に涙する事がなかったとしても――


 セインは二体の竜牙兵と戦っていた。
 竜牙兵とはその名の通り、竜の牙から作られた戦士である。見た目は、骸骨が武器と鎧を身につけただけのものだが、動きは素早く、痛みを知らず打たれ強く、しかも鋭い剣技を操ると言う、かなりの強敵だ。数々の冒険を潜り抜け、一流と言える腕を持つ戦士へと成長したセインだからこそ、二体を相手にしても対等に渡りあえているが、並みの戦士や一般人であれば、あっと言う間に殺されてしまうだろう。
 更に厄介なのは、竜牙兵が、力ある魔術師が駆使する高度な古代語魔術によって作られると言う事実である。これが古代遺跡の探索中に出現したのであれば、単なる古代の魔術師たちが残した守護兵で済むのだが、今は状況が違う。竜牙兵を稼動させられるだけの能力の高い魔術師が、竜牙兵をセインたちに差し向ける立ち位置に――つまりは敵対して――存在しているのだ。
「どけっ!」
 避け切れない一撃を鎧で受け止めながら、セインはルーサーン・ハンマーをふるい、竜牙兵の一体を叩き潰す。うっとうしいほどしぶとい竜牙兵だが、ようやく耐久力を超える衝撃を与えられたようで、折れた骨は再生する事なく崩れ落ちた。
 視界が少しだけ開ける。セインは残った竜牙兵に注意を向けながらも、一瞬だけ、斜め前方に視線を向けた。
 線の細い少女が立っていた。手にした杖を大きく振り上げ、片側に結い上げた長い銀の髪を揺らしながら。大きく開いた唇からは、気丈な声で紡ぐ呪文がこぼれ落ちる――少女が、レンシアが、いつも唱える、雷撃を呼ぶ呪文だ。
 レンシアの目は、一点だけを見つめていた。彼女自身の前方に立つ、男だけを。
「駄目だ、レンシア!」
 セインは声の限り叫んだが、レンシアはセインに振り返りはしなかったし、詠唱を止めもしなかった。そもそも、前方と詠唱に集中する彼女の耳に、セインの声など届いていないのかもしれない。
 焦ったセインは武器を持ち替える。大きく振り上げると、薙ぎ払い、竜牙兵の足元を救う。
「やめろ!」
 体勢を崩した竜牙兵がその場に倒れるのを視界の端で確認すると、セインは走り出していた。倒れた竜牙兵が起き上がり、再び自分に向かってくるだろう事は判っていたが、先の事など構っていられなかった。
 ただ、レンシアを止めたかった。
 止めなければならなかった。
「やめてくれ!」
 頼む。どうか、それだけは――


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