俺は突然、コート内でコケた。 って、これだけだと「なんだ内村マヌケなヤツばっかでー」とか、アキラのバカヤロウなら笑いかねないが、そんなこたねえ。ぜってー俺はマヌケでもバカでもねえ! 「だ、大丈夫かよ内村!」 ほらみろ。森は笑いもせずに俺のコト心配して、近付いてきたじゃねーか。 「どうしたんだ?」 「怪我とかないか?」 ネットの向こうに居た、石田・桜井ペアも、ネット飛び越えて寄ってくるし。オイオイ、さすがにそこまで大事じゃねーよ。 「なんか足元にボール転がってやがってよー。それ気付かずに踏んだらコケちまった」 俺は、まだ足元におっこってるボールを拾い上げて、それを他の三人に見せた。 「いっつも人の顔面ばっかり狙ってるから、バチがあたったんじゃないか?」 「いやそれより……なんで試合中のコートの中に、打ちあってるヤツ以外のボールがあるんだよ」 桜井の言う事は、もっともだ。 ……なんでだ? 「ワリーワリー、深司がそっちにボール飛ばしちまったんだけど、大丈夫かー?」 なんて、相変わらずアホな声でアキラの奴、駆け寄ってきやがった。 んだとコラ。このボール、アキラと深司が使ってたやつかよ。ムカツク。 それにしてもこっちのコートまでぶっとばすなんて、深司らしくないノーコンっぷりだな。 「よく言うよ……自分が下手だから取れなかっただけだろ……それを俺のせいにするなんてほんとろくでもないよなあ……」 「てめーこのヤロアキラ! お前のせいじゃねーか!」 俺はボールを持ったまま、アキラに掴みかかろうと思って、立ち上がる。 と。 ボールを踏んだ方の足首に、ものすげー痛みが走って、俺は悲鳴みたいなもんあげちまった。 「いってーーーーーー!!!」 「う、内村!?」 「大丈夫か!? いや、大丈夫じゃないよな? 大丈夫なわけが」 「足首、ひねったんだな!? 冷やすもん……ええい、保健室行こう、保健室!」 なんか、お前ら、慌てすぎじゃねーの? なんてツッコめるくらい、怪我した本人の俺が一番冷静っての、どーなんだ? 「どうやって運ぶ? 担架? も、持ってくるよ俺! 保健室にあるのかな?」 「いらねえってそんなもん!」 なんだってたかが捻挫(?)程度で担架で運ばれなきゃなんねーんだよ、アホくせえ! 「え、でも、じゃあどうするんだよ!」 「誰か肩貸してくれりゃそれでいいって。保健室までそんな遠くねーし」 「駄目だよ! 足への負担は少しでも軽くしないと! 大会だって近いんだから!」 心配性だなあ、森のやつは。ちょっとウゼエぞ、そこまでいくと。 「いーから、ほら、肩貸せ!」 まだ何か言いたそうな森を黙らせて、肩借りて、立ち上がってみる。 ん、まあ、何とかなるだろ。ちったー痛えけど、保健室くらいまでならなんとか。 「内村、やはり自分で歩くのはやめた方がいいぞ。多少なりとも足に負担がかかる。それ以上ひどくしてどうする」 あ、橘さんまでいつの間にか来てるし。心配しすぎだって、皆。 「俺が保健室まで運んで……」 「いえ、橘さんにそんな事させられませんよ! って、俺じゃあんまし体格変わらないしな……あ、石田、おんぶしてやってよ、内村の事」 「ゼッテーやだ!! ひとりで歩いた方がましだ!」 なんだよ、なんだおんぶって! 恥ずかしいだろ、いくら怪我人だからって! ガキじゃあるまいし! ああでもこうやってムキになって反論すると、アキラあたりが喜んで逆効果なんだよな。くそっ。 と、思って構えてみたけど。 どーやらさすがにアキラも、俺に怪我させた負い目があるのか、とくにはやしたてたりしなかった。 ふふん、このネタでしばらく、ゆすれるかもな、アキラのこと。 「判ったよ、内村、そんなに嫌なら背負ったりしない」 ちょっとおせっかいの入っている石田の事だから、俺の意向を無視して俺を肩に担ぎ上げそうなものかと思ったけど、コイツも結構素直で。 なんか、拍子抜けだな? 「横だっことかなら足に負担かかりませんよね、橘さん」 「背中貸せ石田」 俺は、反射的にそう言っていた。 横だっこって……穏やかそうな笑顔で、なんて恐ろしい事を言いやがる石田。 はっ! 作戦か!? 心理作戦だったんだな!? くそっ、騙された! 「そうそう、それでいいんだよ。怪我した時くらい素直に甘えろって」 全てを判ったような口調で、俺を背負いながら、石田はそんな事言いやがって。 ――ムカツクな、コイツら(−橘さん)。チキショー。 俺は石田の首に腕を回して、なんか楽しそうに俺を見上げる橘さんたちを見下ろした。 あれ? なんか。 「おもしれー」 なんて率直な感想を述べる俺。 「おもしろいって何がだ?」 「石田の肩越しに見える風景」 不本意ながら、俺の背はお世辞にも高いって言えないからな。 だから、でかすぎる石田に背負われて見る風景は、いつもと同じ風景なのに、ぜんぜん違うものに見えやがる。 「これが石田の視点か。アキラ、ちっせーなぁ」 「うるせえよ内村! お前のがもっと小さいっつうの!」 むきになりやがって、アキラってホント単純バカだよな。 でもほんと、小さい。アキラだけじゃなくて、森も、桜井も、深司も。 橘さんでさえ見下ろせるんだ。すごくねえ? なんつうか、すっげえ新鮮! 「よっしゃ石田、保健室に向かって進め!」 俺はなんか楽しくなって、笑いながら腕を伸ばして、保健室の方向を示す。 「ったく、調子いいんだよ、内村は」 石田はそんな風に文句垂れてたけど。 素直に甘えろって言ったのは、お前じゃねえか、なあ? |