今日は見たいテレビがあったから、ダッシュで家に向かっていた俺なんだけど。 道の途中にある公園のベンチに、夕暮れ時、南がひとりぽつんと座る背中を見かけちゃったから、ついつい足をとめちゃったよ。 だって、なんか気になるじゃん? 南ってば、たそがれてるのが似合いすぎてるしさ。 「み〜なみ!」 俺がひょこひょこと、でもビックリさせるために静かに南に近付いて声をかけると、南は「うわぁっ」なんて悲鳴を上げながらぎこちなく振り返る。 そんでもってついでに、バサバサバサ、なんて小さな羽音が沢山鳴った。 あ、スズメだ。沢山居たんだなあ。俺のせいで逃げちゃった? もしかして。 「なんだよ千石。お前がうるさくするからスズメがほとんど逃げちまっただろーが」 「逃げちゃ駄目なの?」 「駄目だ」 「なんでさ」 「和むだろ、見てると」 南はそれだけ言って、俺から目を反らして、まだ何羽か残っているスズメの方に向き直った。 うーん、まだ中学生なのに、スズメに和みを求めるのはどうかと思うけどなあ、俺。 とか思いつつ、南の隣に座って、その辺に落ちてる餌をついばんでるスズメを見てたら、なんか俺まで和んできちゃった。うわー、スズメパワー、侮れないね! 「南、焼きイモ半分もらっていい?」 スズメに和まされつつ、俺はちゃっかり南が手に持っている焼きイモへのチェックは怠らない。さっき学校出る時、遠くで石焼きイモ屋の声が聞こえて、ちょっと食べたいなあって思ってたから余計にさ。 「ああ、別にいいぞ。そろそろ食べごろだろ」 南は焼きイモをふたつに割って、小さい方を俺にくれた。うーん、南ってばケチだなあ。ま、南のお金で勝ったやつだから、文句言えないけどさ。 でも南の言った通り。ちょうど食べごろかも。あったかいけど、熱すぎなくて、ギリギリ食べれる感じ。 あ、けっこううまいな、この焼きイモ。ホクホクしてるし、色もきれいだ。あっと言う間に食べられちゃいそう。 「やっぱ冬は焼きイモだね〜」 「先週お前冬はおでんに限るって言ってたぞ。その前はあんまん。その前は……」 南、細かすぎ。 なんかほっといたら延々と話続きそうだから、ごまかそっと。 「スズメってかわいいね。特に冬は、ふくふくしてて丸くて、ホント見てて和むね」 「だな」 「南はスズメがどうして冬丸いか知ってる?」 南はちょっと上目使いで、考え込んだ。 「知らね。けど、防寒対策じゃねーの? あの方があったかそうだし」 「ピンポーン! 羽の間に空気入れてふくらんで丸くなってるんだってさ。人間がセーターとか着るのと同じ原理だね」 「ああ、じゃあ今のお前と同じか」 んまっ、なんて事言うかな南クン! このスレンダーボディーを誇るプリティーキヨスミに向かって! ……たしかに俺今、ちょっと着膨れしてるけどさ。だって寒いじゃん、冬。マフラーだけでベンチに座ってられる南が信じられないね、俺は。 「でもお前はかわいくねーし見ても和まねーから違うか」 むきー! なんて事言うかな南クン! この……えっと、とにかくプリティーキヨスミに向かって! 「スズメはさ、冬の寒さを乗り越えるために、たくさんエサを食べないといけないんだってさ」 「へーよく知ってるな、お前」 「だから、いただきます!」 俺はいまだにスズメから目を反らさない南が、右手に持ったまま口もつけてない焼きイモに、そのまんまかぶりついた。 「うわっ、てめっ! 俺の焼きイモ!」 南が怒って、俺を睨みつけたけど、もう遅いよ。 「ごちそーさま〜」 「くっそー、てめー、金払え!」 「俺を怒らせた南が悪いんだよ。じゃあね〜」 ひらひらひら、と手を振って、俺はその場を逃げ出した。 楽しみにしてたテレビには、もう間に合いそうもないけど。 スズメかわいかったし、南からかうのおもしろかったし、焼きイモうまかったし。 今日もまあまあ、ラッキーだったって事で。 |