沈もうとする夕日が目にまぶしくて、だけど綺麗で。 目を細めて見つめながらぼんやり歩いているうちに、気付けば最後尾になっていた、らしい。 「石田さん?」 杏ちゃんの声ではっと気付いて前を見ると、記憶に残っている最後の場所からずいぶん移動していて、目の前に踏切があった。杏ちゃん以外の連中は俺の事なんておかまいなしで、すでに踏切を渡りはじめている。 「ぼーっとしてると危ないよ? ここの踏切、降りるの早いから……」 「ああ、ごめん」 謝って、それから「ありがとう」と言って、すぐに踏切を渡ろうと思った。 なんて間の悪さだろう。カンカンカン、と激しい音が鳴りはじめてしまう。線路の真上に居た仲間たちが、焦って走り出す背中を眺めながら、俺たちふたりは踏切のこちらがわで足を止めた。 ここは線路の幅が広いから、鳴りはじめてから走っても、俺はともかく杏ちゃんは間に合わないかもしれない。それに踏切が降りはじめてから渡りはじめるのは、あまり俺の主義じゃない。アキラは足の早さを自慢するためにしょっちゅうやっているけれど。 「降りるのが早い分、上がるのもはやいもんね、ここ。桜井くんたちにはちょっとだけ待ってもらお」 杏ちゃんは屈託なく笑って、踏切の向こうの桜井たちに手を振った。アキラが自己主張のためか、ジャンプしながら大きく両手を振っているのが妙に印象的だ。ガキみてえ。 「何食べようかな〜。なんか今日は、ごはんもの食べたい気分」 「杏ちゃん、けっこうせっかちだよな。何食べるかなんて、店のメニュー見てから決めればいいのに」 「それは、そうなんだけどー。石田さん、カキフライ定食あるといいね」 「俺は別にいつもカキフライやメンチカツ食べてるわけじゃないぞ」 「そうだっけ?」 あはははは、とふたりの笑い声が重なって。 遠くから近付いてくる電車の音の中で、夕日に照らされた杏ちゃんの横顔を見下ろすと、不思議な陰りが見えて――俺はふと、とある衝動にかられた。 理由は、多分、何もなかったのだと思う。あえて言うなら、夕焼けの綺麗さによって引き起こされた情緒不安定。 俺は杏ちゃんから顔を反らして正面に向き直り、言ってしまったのだ。 「俺、杏ちゃんの事好きだ」 俺の声と重なるように、目の前を通りすぎる電車がガタンガタンと大きな悲鳴を上げる。 そこではっと、正気に返った俺。 やばい俺何言ってるんだこんな時にこんな場所で言うつもりなんて全然なかったし言われたって杏ちゃん困るじゃないか。そんでもって拒否されたらこのあとゴハン食べてる間ずっと辛いじゃないか。馬鹿か俺。 緊張と混乱が同時に俺に襲いかかって、もうどうしていいか判らない。耳を塞ぎたくなるくらい電車の音はうるさいのに、それ以上にうるさい俺の心臓の音。 もう、いっそ。 何でもいいから審判を下してほしい、と思えるほどに。 「あ、上がった」 俺たちの間に流れた沈黙を破ったのは杏ちゃん。 おそるおそる横目で覗いてみると、徐々に上がっていく踏切を、嬉しそうに見上げている。 あれ? 俺の声……聞こえて、なかった、の、かな? それはそれでほっとしたような、拍子抜けしたような。ひとりでやきもきしていたのは、何だったんだか。 「石田さん、ほら、行こ。皆待ってるよ」 杏ちゃんは俺の腕を引いて、仲間たちに向けて走り出す。 つられて走りながら、斜め後ろから杏ちゃんを見下ろして、ああ、今はこれで良かったんだなと、思えた。 杏ちゃん。 この気持ちはいつか、今みたいに無意識でも、勢い任せでもなく。 はっきりと君に、伝えたいよ。 |