年中無休

 関東大会ベスト8を勝ち抜いたボクたちは、午後の試合に備えて昼食を摂る事になった。
 よっぽどお腹が空いているのかな。真っ先に適当な場所に腰を降ろして、そそくさとお弁当を取り出すのは、バネさん。
 お弁当の包みを慌てて開けると、コロコロコロ、とオレンジ色の球体が転がり出てしまう。
「やべっ」
 慌てて手を伸ばすバネさんより一瞬早く、別の手が伸びてそのオレンジ色の球体を手に取った。
 その手の主は、昼食用の飲み物を買いに行っていた天根だ。
「へえ、バネさん、今日の昼メシのデザートはみかんなのか。季節はずれなのに」
 天根の事を、「睨むだけで人を殺せそう」と称したのは誰だったか、もう忘れてしまったけれど、「そんな事言っては失礼だよ」なんて言いつつも、完全に否定できないほど、天根は確かに怖そうな目付きをしている。左手に持ったジュースと、右手に持ったみかんが、はっきり言っちゃうと笑えるほど似合っていないんだ。
「やんねーぞ」
 バネさんは「絶対にみかんを渡してなるものか」とばかりに、天根に凄んで見せたんだけど、それでも、素で立っている天根の方が怖かったりする。
「やだなあバネさん、バネさんからみかん奪うほど、俺飢えてないって。あ、でも」
 天根は、ふいに目を輝かせる。
 あ、やな予感。天根がその目をした時は、必ず出るんだよね、アレが。
「ほら!」
 天根は左手に持っているジュースの上に、ぽん、とみかんをのせた。
「アルミ缶の上にあるみかん!」
 その瞬間。
 バネさんの回し蹴りが炸裂し、それは天根の脛にヒットして――天根はその場に倒れ込んだ。
 バネさんの蹴り、日に日に切れ味が増してくなあ。すごい。
「ってー、予告無しでこれはないっしょバネさん!」
「うるせーこのダビデ! つまんねーシャレは言うなっつってんだろ」
 多分、そう、これはボクの予想だけど。
 バネさんがそうやって、いちいち天根にツッコミを入れるから、天根はおもしろがってダジャレを言いつづけるんじゃないかなあ。
「今のはけっこうおもしろかったと思うけどな……」
 天根はバネさんの反応が心底不服そうだった。
 うん、確かにいつもよりはおもしろかったよ、天根。ほんとに、ちょっとだけだけど。いつものが「最高につまらない」なら、今のは「かなりつまらない」レベルだと思うもん。
 天根のダジャレも、バネさんのツッコミ並に成長すればいいのにね。
「百歩譲って、今のシャレがおもしろかったとして、だなあ!」
 バネさんはみかんと天根のジュースを拾ってから、転がったままの天根に近付いて、しゃがみこんだ。
 その光景が、年下のボクが言うのもなんだけど、なんだかすごく微笑ましい。バネさんってちょっと(だいぶ?)ツッコミきついけど、やっぱり優しいよね。
「これスチール缶だ、どアホ」
「え!? マジで!」
 天根が慌てて体を起こす。
「マジマジ、ほれ、見てみ」
「うわっ、ほんとだ。くそっ、俺のダジャレ人生における一生の不覚!」
「そんな人生、とっとと終わらせちまえ!」
 バネさんが天根を叩く、ゴイン、と大きな音が辺りに響き渡る。
 それに続くように痛そうに頭を抱える天根の呻き声が、六角中一同の笑い声が、響いて。
「天根のダジャレと、黒羽のツッコミは、休む事を知らないな」
 さりげなくお弁当を食べ終えたサエさんが、小さく笑いながら、そんな事を言った。


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