喜んで、いい事なの、かな? 日曜日に部活があって、ヘトヘトに疲れて家に着いたら、夕飯にでっかいオムライスが用意されてて。しかも、ふわふわで。 俺、すっげー嬉しくてさ。着替えるのも後回しにしてもりもり食ってたら。 「英二ってほんと、幸せそうにごはん食べるよねぇ」 なんて、姉ちゃんが笑いながら言った。 「あのさー、俺ってメシ食ってる時、そんなに幸せそうかなあ?」 次の日の昼休み、屋上で弁当食いながら、俺は不二と乾(なんとなく不二とふたりで屋上に来てみたら、乾も居たから、一緒に食う事にした)に聞いてみた。 すると、不二と乾は一瞬だけ、顔を見合わせて。 「そうだね。英二は何を食べていても幸せそうだよ」 「確かに、呼吸をしているだけでも幸せそうだな。ちなみに空気中に含まれている成分は……」 「そんな説明今は必要ないよ、乾」 乾の必殺データひけらかしを、あざやかに防ぐ不二。 さすがっ! その技使えるの、不二と……あと手塚くらいしか居ないよなー、俺の知る限り。 っとと。そんな事より俺へのコメントだよ。何食べていても幸せそうって……誉められてる、のかな? 一応。 にゃんっかこのふたり、事あるごとに俺を馬鹿にするから、油断なんないんだけどっ。 「僕の知る限り、不幸そうな顔をしていたのって、ピーマンがお弁当に入っていた時くらいかな?」 うん、ピーマンは嫌いだ。ニガニガしてて、おいしくない! 「いや、ピーマンはよける事ができるから、そう酷くもないぞ。ここ最近で一番辛そうだったのは、コロッケに思いきりかぶりついたらグリーンピースが入っていた時だな。あの時の顔は傑作だった」 そんなデータ、取るなよ、乾。役に立たないだろ。 それとも、乾汁にグリーンピース入れるつもりか!? あれ以上まずくするのはホント勘弁してくれよっ。そのうち死人が出るぞ! 「まあ、それはともかく」 乾はゴホン、って咳ばらいをして、度のキツイめがねを通して、俺の目を真っ直ぐ見る。 「オムレツ、及びエビフライを食べている時、普段の三倍幸せそうなのは確かだな」 「カキ氷はどう?」 「夏、しかも校外でしか食べられないために、データが足りない」 少しはあるのか……俺、乾の前でカキ氷食った事あったっけ? 「それで?」 「え?」 「そんな事をわざわざ僕らに聞いて、英二はどうしたいのさ」 なんて、不二が俺に逆に聞かれて。 聞いてどうするのか、なんて言われても困るよなぁ。なんとなく聞いてみたかったから聞いてみただけだし。ほら、俺って気分屋じゃん? 「んーとさ。昨日家でオムライス食ってたら、姉ちゃんが食ってる俺見ながら、『ほんと幸せそうにごはん食べるね』って言ったのさ。それってどうなのかな、って思って」 「どうなのかな……って、どう言う意味?」 「なんか中三にもなって、メシ食っている時がむちゃくちゃ、顔に出るくらい幸せなんて、子供っぽいって、バカにされてんのかなあ、とか思っちゃってさ」 俺はちょっと、俯いた。 なんかビミョーに怖くて……怖いってのも、ヘンな言い方かもしれないけど、とりあえず、ふたりが今どんな顔してるのか、見るのをためらったんだ。 「僕は英二のお姉さんの気持ち、すごく判るな」 不二の声は、不思議と優しかった。 「不二……?」 「きっと、僕が裕太へ抱く想いと同じものを、英二のお姉さんも感じているんだよ」 ゆっくり俺が顔を上げると、そこには気のせいか、いつもよりもずっとずっと優しい、不二の笑顔があって。 そっか。そうかな。そうなのかな。 俺は結局、姉ちゃんに大切にされてるって、そーゆー事なのかな。 「僕もね、ときどき思うんだ。裕太がうちの食卓で、そうだな、おいしそうにかぼちゃ入りカレーを食べているのを見ると……特に、熱いかぼちゃを頬張っている時、かな」 「うん」 俺は微笑みながら、頷いて。 ふたりの様子が簡単に想像できるんだ。カレーをがっつく不二の弟と、今みたいに優しく微笑んでる不二が、向かい合っているダイニングルーム。 きっと、春の日差しの下みたいな、あったかい空気の中で。 「骨を与えられた子犬みたいでかわいいなって……」 「結局ばかにしてるんじゃないかーーーーーーーーー!!」 「大丈夫だ菊丸、不二の弟は犬系だが、お前はどう見ても猫系だから、少し違うだろう。あえて言うなら魚を与えられた子猫……」 「そんなのどっちでもいいっつうの! ちくしょー、覚えてろよっ!」 俺はそう捨て台詞を吐くと、食べかけの弁当箱に蓋をして、ふたりの前から走り去ったのだった。 「さすがに、グリーンピースの時よりも酷い顔をしていたな、今」 なんて、腹立つくらい冷静で楽しそうな乾の声を背中に受けながら。 |