MD

 俺はずっと思ってた疑問を、その時部室にいた不二と乾とタカさんにぶつけてみた。
「手塚ってさあ、やっぱ友達少ないのかなあ」
 三人は着替えるために動かしていた手を休めて、少しだけ考え込んで、口ごもったんだけど。
「ど、どうだろう。人望はあると思うけど、友達となると……」
「俺のデータによると、けして多くはないな。俺も人の事は言えないが」
「と言うか、多かろうと少なかろうと、英二には関係無いよね。友達って言うのは量より質だと思うし」
 いや、不二のツッコミはもっともなんだけどさ。
 俺はいちお、手塚の友達のつもりだし。ちょっと気になったんだよ!
「でも突然どうしたの、英二」
 うう。やっぱタカさんは(不二や乾と違って)優しいなあ。その優しさが胸に染みるよ。
「いやさー、こないだ大石に用があって大石に会いに言ったらさ、ちょーど手塚と話してたんだよ。で、こいつらどんな話してんだろとかちょっと思って盗み聞きしたら、なんかワッケわかんねーの。多分魚の話だと思うんだけどさ」
「あれ? 手塚と大石って魚の話するんだ。本当に?」
 不二が不思議そうに眉間に皺を寄せる。
「するぞ。俺と三人でする事もある。手塚の趣味は釣りで、大石の趣味はアクアリウム。魚は共通の趣味と言えるだろう」
 そんでお前は、意味もなくためこんだ魚のデータ、ひけらかすんだな。
 なんか、三人の会話も聞いてみたいな、ちょびっと。つき合わされるのはカンベンだけど。
「そうかな? 釣りって結局、野生のしぶとい魚と知的勝負をする事だろう? 対してアクアリウムは、魚を甘やかして可愛がって美しく育ててあげる事。同じ魚が関係すると言っても、マリアナ海溝より深いミゾがある気がするんだよ」
「確かにそうだな。ふたりの口から出る魚の名前が一致した事など、過去一度としてないからな」
「むしろ俺とのが合いそうだよね。あ、手塚の方。寿司のネタになりそうだから」
 ここから俺たち四人はしばらく、寿司ネタの話で盛り上がった。何が好きとか、またタカさんちで寿司たべたいねーとか。
 で、今度の合宿の時とか、手塚に魚釣ってもらって、タカさんにさばきつつ寿司握ってもらおうかあっはっはなんて話になって。でもアナゴは無理そうだよなー。甘エビもなー。タマゴなんてもうジャンル違うし。
 って。
「いや違うんだよ! 魚の事じゃねーの、俺が話したかったのは!」
「あ、そうなの? じゃあ何さ」
「ぶっちゃけ、手塚の趣味ってちょっとじじくさくねー?」
『……』
 三人はなんとも言えない目つきでベンチに座る俺を見下ろした。
「あーあ、言っちゃったね英二」
 不二が心底呆れたように、ため息吐いて。
「でも……うーん。爺くさいって、俺もあんまり人の事言えないかなあ」
 タカさんが悩みはじめた。いや、タカさんは趣味は若いよ〜! ゲームとか大好きじゃん!
「ところで、他人事のように流していたが、不二。お前の趣味もけして若々しいとは言えないぞ」
「そう?」
「部屋の中心に置いたロッキング・チェアに揺られながらレコードでクラシックを聞く中学生は、釣りを趣味とする中学生より少ないだろう」
「でも、ロマンスグレーって感じで格好いいよ」
 タカさんそれ、フォローになってるようでなってない。
「とにかく、タカさんは趣味が若いし、不二は外見が若いからいーの! どっちも老けてる手塚は大問題!」
「今さりげなく酷い事を言ったな菊丸。つまり、河村は外見が老けていて不二は趣味が老けていると言う事だな?」
 だーもーツッコミきびしーな!
 やっぱコイツらに相談するんじゃなかった。大石にすればよかったよ。大石もビミョー(?)に若さが足りないから、よけたんだけど。それに、「趣味は人それぞれだからな。いいんじゃないか?」って笑って済ますだろうしさ。
 いや俺だって、そう言われちゃえばそうかなとも思うけど。
「とりあえずね、俺、考えたの!」
「無い頭を使って?」
「うがー!」
 俺はすかさず不二にチョップをしかけたけど、不二は涼しい顔をしてよけた。
「不二、と、とにかく、ちょっかいかけずにいったん、英二の話を聞こうよ」
 暴れる俺を静止しながらタカさんが言うと、不二は苦笑しながら肩をすくめて、「仕方ないなあ」なんて肯いた。
 不二ってさ。
 俺にだけひどいよな。絶対。
「はい、英二、話してみてくれよ。何を考えたの?」
 タカさんが俺をベンチに座らせて、子供をあやすようにぽんぽん、って俺の頭に触れた。
 ま、いっか。タカさんに免じて許してやるよっ。
「とりあえず、手塚の友達を増やそう作戦そのイチとしてさ、手塚にもっと若い趣味を持ってもらおうと思ったの。で、まあてっとりばやいところで音楽かなと思って、俺家で、最新の曲をあつめてきた! これを手塚に渡して、聞いてもらうんだ!」
 じゃーん、って口で言った効果音とともに、バッグの中からMDを取り出す俺。
 不二は笑顔をかためて。タカさんはぽりぽりと頬をかいて。乾はずれたメガネの位置を直して。
 あれ?
 なんか反応、ビミョーじゃん?
「菊丸。その作戦の目的や方法にも色々問題はあるんだが……あえてひとつだけ、決定的な問題を指摘しよう」
 ゴホン、と咳払いひとつ挟んで、口を出したのは乾だった。
 なんだよ〜。完璧じゃん俺の作戦! 何が悪いってのさ!
「手塚の部屋にMD再生機能がある機械はひとつもない」
 …………。

 第一次手塚の友達増やそう大作戦、失敗。


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