それはとてもとても日差しの強い、八月の朝。 千石は試合を終えたばかりの俺の隣に、どっかりと座った。 「あのさ」 「なんだよ」 「俺ね、あの時、ものすごーく、太陽の光が怖く感じたんだよね」 「……ああ」 千石は、「あの時」がいつかとは、言わなかった。 けれど俺は、それがいつだか、なんとなく判ってた。 なんで判るかって、それは、俺も太陽の光にちょっとした恐怖を感じた時があって、多分、それが千石が太陽を恐れたのと同じ時なんだろうなって、思ったからだ。 太陽の光が、強くて、熱くて。 そんな事あるわけもないのに、光が千石を刺し貫いてしまうんじゃないかって、思ってしまったから。 だからあの時千石が、俺と同じ地面に足をつけて立っていたのなら、俺は千石に駆け寄ったと思う。それから、千石より身長が高い事を利用して、影を作って、太陽からこいつを守ろうとしたと思う。 現実的にはとても馬鹿げた事なんだけど、何て言うか……感覚的なもんで、とにかく、なんか嫌だったんだ。 でもあの時、千石と俺は同じところには居なかった。 まるで自分自身を痛めつけるかのように。 自分から、刺し貫かれる事を望んでいるかのように。 「だからね、俺は、自分から太陽に近付いてみたんだ。どうしても、ちょっとだけでもいいから近付いてみたくて、屋根の上に登ってさ」 「したら、どうだった?」 「もちろん、余計に怖かったよ。眩しくて、何度目を反らそうかと思った」 知っていた。 それでも空を見上げている千石を、俺は見上げていたんだから。声もかけずに、ただ、黙って。 「……そっか。良かったな」 俺がそう言うと、千石はほんの少しだけ驚いた表情を見せて、それから黙り込んで、 「うん。すごく、良かったよ」 力強い声で言ったんだ。 ああ。知ってるよ、俺は。 その恐怖を乗り越えて、今、お前はここに居るんだって。 逃げなかったから。立ち向かったから。 だからお前は今、太陽を恐れない強い瞳を持って、ここに立っている。 「シングルス3、前へ!」 「ほら、審判がお前の事、呼んでるぞ。出番だ」 「はい、はい」 千石はゆっくりと立ち上がる。愛用のラケットを、右手に握り締めて。 「じゃ、行ってくるよ」 「ああ。行ってこい」 そしていつもみたいに陽気に笑って頷いて、千石はコートに向けて歩き出した。 夏の強い日差しは、空高くから、地上に降り注ぐ。俺に力強い背中を見せる、千石にも。 なあ、千石。どうしてだろうな。 今こうして、お前を照らす太陽の光は。 あの時とは違って、とても温かくて、優しいものに感じるのは。 |