俺は黄色いチョークで、黒板にでかでかと、「本日の議題:文化祭の出し物について」と書き記した。 それから部員一同に振り返ると。 「サエ、質問だ」 図体がでかいから問答無用で一番後ろに座らせられたバネが、手を上げていた。 「はい、バネ」 「黄色いチョーク使うなら、なんでダビデに白いチョークを取りに行かせんだ?」 「やっかいばらい」 俺が笑顔で簡潔に答えると、バネは納得したように苦笑して、それ以上何も言わなかった。 さて、じゃあ、はじめようか。 俺は議長役である部長の剣太郎に目配せをする。 「えーっと、サエさんが黒板に書いた通り。今日は、今年の文化祭でのテニス部の出し物について話し合うよ! とりあえず、何か適当に、案、出して!」 「はい!」 勢い良くドアが開く音とともに、でかい図体が部屋の中に現れる。 天井に向けて高々と伸ばされた腕。ムダに真剣な表情。 沈黙と共に、部員全員の視線が彼に集まったけれど、十秒もした頃にはみんな沈黙に飽きたようで。 うーん。やっかいばらいしたつもりなのに、帰ってくるの早かったなあ。手にはちゃんとチョーク持ってるから、部屋から追い出すわけにもいかないし。 「サエ、飲食店はありか?」 「無いこともないけど、基本的に無いと思ってほしいな。枠狭いから多分とれない。取れなかった時決めなおすのがめんどくさいから、よっぽどやりたい事じゃ無いなら諦めてくれる?」 「ふうん。じゃ、どっか教室は借りれんのか?」 「特別教室か空き教室しか無理じゃないかな。特別教室も、音楽室と美術室と実験室と調理室は他の部が使うだろうから、無難なのは舞台枠か外だね。もちろん部室の利用は自由だけど、こんなところまで誰も来たがらないだろうから……」 入口近くに立っていた図体のでかい二年生は、じりじりと俺に近付いてくる。 とりあえず、無視続行。 「あ、プールってどこも使わないよね!? シンクロして女の子にモテモテとかどうかな!」 「却下」 「なんで!」 「これ以上モテたら面倒だろ」 「……!」 あ、剣太郎が凹んだ。 そんな暇があったら、俺の視界を遮るくらいまで近付いてきたダビデを、どうにかしてくれないかな。 「無難に劇とかやっとけばいいんじゃない? 本格的にやるのもよし、ありえない配役でウケ狙いでもよし」 「ありえない配役? 聡が白雪姫で、バネとダビデが小人役とか?」 「ふたりのどこが小人なんだよ!」 「って、俺の白雪姫はツッコミどころじゃねーのかよ!」 部屋中が、笑い声で沸きあがる。 ああ、いいよなあ。みんなが仲良くて、平和な空気で。 俺はやっぱりこの学校が、この部活が大好きだから、最後の文化祭、楽しくしたいよ。 「って、みんなして俺を無視、するなーーーーーー!」 あ。 ダビデがキレた。 ダビデが大きな手で黒板をバン! と叩くと、笑い声が一瞬にして止んでしまう。 「仕方ないな」 本当に、仕方ないけど。 心底、無視を決め込みたいけど。 俺はため息を吐きながらダビデを見上げた。 「とりあえずダビデの意見、聞くだけ聞いてあげるよ」 「あのー、サエさん、一応司会進行はボクなんだけどね」 問答無用。 「ただし、十秒以内に、却下決定済の『天根ヒカルオンステージ』及び『バネ&ダビ漫才』以外の案が出せなかったら、罰ゲーム」 「……!」 ダビデの顔が驚愕に歪んだまま、硬直する。 やっぱりね。絶対言うだろうと思ったんだ。だからやっかいばらいしたんだからね。 「十……九……」 「タンマ! タンマサエさん! 待った!」 「待たない」 進みゆくカウントダウンの間に、ダビデは「待って」以外の言葉を口にはできず(臨機応変と言う言葉がこれほど似合わないやつは居ないよなあ)。 「はい、タイムオーバー」 「う……」 俺が微笑みながら肩を軽くと、ダビデはその場に力なくしゃがみこんだ。 さて。 罰ゲームには、何をしてもらおうかな? |