|
小さい頃から使っていた目覚まし時計が壊れた時から、俺を毎朝起こしてくれるのは、携帯電話だ。 こういった代用品があるのにわざわざ目覚ましを買うのももったいないかな、と思ったし。わりと目覚めはいい方だから、携帯の音でも充分起きられるからな。 ただ、唯一の問題は。 今みたいに、枕元に置いた携帯が真夜中に鳴り響いたとしたら、起こされてしまうと言う事。 「……なんだよ」 布団に潜ったまま腕を伸ばし、手探りで携帯を取る。 目を開けると完全に起きちまう気がして、それが嫌で、相手の名前を確かめずに電話に出る。 どうせ誰だかは、なんとなく予想がついてるしな。 「……もしもし」 『あ、みなみぃ？ 俺俺ー』 やっぱりお前か、千石。 「どちらさんでしょうか」 『またまたー、判ってるくせにぃ！』 「睡眠を妨害するような心ない友達を持った記憶がないんだよ」 『そうだねー、南って地味で礼儀正しい友達しか居なさそうだよね！ でも大丈夫だよ。南には千石清純って言う、派手で無礼なし・ん・ゆ・う！ が居るからね』 何が大丈夫なんだよ。いらねえよそんな親友。本気で。 俺ははあ、とため息吐いた。 「んで？ 何の用なんだ？ こんな時間に電話かけてくるって事は、相当な用事なんだろうな？」 『うん、そうなの！ もう大変！ 俺、締め出し食らっちゃったんだよ！』 ……は？ 『もう涙無しには語れないんだよ！ こうさー、俺って良い子じゃん？ だからすっごい早く寝たわけ』 「早く？ 何時だ？」 『えっと、夕方の六時くらいかなあ』 早すぎだっつの。 ってか、お前それ、うたたねのつもりだったんだろ？ 良い子でもなんでもないじゃないか。 『そんで、さっきお腹がすいて目が覚めちゃってさー。でもさー、夕飯、準備されて無かったんだよね！』 準備されて無いっつうか、片付けられただけだろ？ それ。 俺がベッドに入ったのが一時で、どのくらい寝たかわかんねーけど、多分今二時は過ぎてるだろ？ そりゃ片付けるだろ。それかはじめから作らないだろ。 『なんかこう言う日に限ってカップラーメンとかもないし。だからさあ、何か買おうと思ってコンビニに行ったわけ、俺』 「ああ」 『そんで帰ってきたら、なんか俺が出てってるの気付いて無いみたいでさ、玄関閉めちゃってんの！ ほんの五分くらいだからって、俺、鍵持って出なくって。こう言う時ばっかり戸締りしっかりしてるんだから、やんなるよまったく！』 最近空き巣とか強盗とかの事件、多いからなぁ。 しょうがないさ。むしろいい事だ。こんな時間に出かけるほうが悪いっちゃ悪いからなあ。 「で？ なんで俺に電話かけてくるんだ？」 電話の向こうで、千石が息を飲む。 『うわっ、ひどい南クン！ 親友なんだから助けてよー。今晩泊めてくれるとか』 「今から？ 無茶言うな」 『じゃあ、一緒にファミレスかなんかで朝まで時間潰してくれるとかっ。明日学校も部活も休みなんだからいいじゃんっ！』 「たっぷり眠ったお前と違って俺は眠いんだよ。大体今パトロール強化月間だろ。補導されたらどうするんだよ」 『大丈夫だって！ ラッキー千石がついてるんだから！』 お前はラッキーでも……俺はラッキーじゃないんだよ……。 俺だけ捕まってお前ひとりだけ逃げるってオチになるに決まってるんだよ。なんで俺がそんな目にあわなきゃならないんだ。 って言うか。 「お前、なんで俺に電話かけてきたわけ？」 『南、なんで同じ事聞くの。俺の話聞いてた？』 「そう言う意味じゃなくて。俺にじゃなくて、家に電話かけるなりチャイム鳴らすなりして、ドアを開けてもらえばいいじゃんか。今鍵閉めたばっかりなら、まだ起きてるだろ？」 電話の向こうから、強い強い風の音だけが、俺の耳に届く。 長い沈黙。 『南、あったまいー！ じゃあね！』 千石は突然大声でしゃべり出したかと思うと、電話を切ってしまった。 勝手なヤツだな……！ ……まあ、いつもの事か。 今更怒るだけ、時間の無駄だよな。 俺は電話を枕元に転がして、深い眠りに落ちていった。 |