テストの最後の日のお昼は、部室でお昼を食べる。 別に教室とか屋上で食べてきたっていいんだけど、わざわざここで食べる意味があるのって、こんな日だけって気がするし、部長の職権乱用って感じでちょっと気分いいし(いや職権乱用してるのは南なんだけど)、だから、なんとなく。 「あ、やべ。鍵とってくんの忘れた」 お腹空かせながらグラウンドを横目に歩き続けて、ようやっと部室に辿り着いたかと思った瞬間、南がいきなりそんな事言い出すから、 「何してんの、南ってば」 「意味ないだろ、そりゃ」 東方と組んで、いじめてみたりして。 「はいはい、悪かったよ。俺ひとっぱしり行ってくるわ」 南は苦笑しつつ、担いでた荷物を東方に預けて。 手にぶら下げたコンビニ袋を、俺に向かって放り投げて。 そんで、職員室に向けて全速力で走ってった。 「えーっと、南の今日のお昼はー」 「漁るなよ」 とか言いつつ、東方も俺と一緒に袋、覗き込んでんじゃん。 スミにおけないねえ(?)、地味’sマサも。 「コロッケパンとー、サンドウィッチとー、飲むヨーグルトとー、焼きサケハラミおにぎりでーす」 「飲むヨーグルトとおにぎりの組合せってあんまりおいしくないよな」 「ってか、この組合せにむりやりおにぎり入れなくても良いのにねえ」 「よっぽど好きなんだな、焼きサケハラミ」 「地味だよねえ」 「地味ってか、しぶいよなあ」 いつもは「地味って言うな!」ってツッコんでくる東方なのに、今日はめずらしく、俺に賛同しちゃってる。 あ、そうか、地味’sに対してじゃなくて、南にだけ地味って言ったから、かな? なんか、ツッコまれないと、どうしていいか迷うなあ。 「南、こんだけで足りるのかなー? 練習ない日ならまだともかく」 俺は、近くにあったベンチに座って、グラウンドで走りまわってるサッカー少年たちをぼんやり眺めてみる。 あんまり上手くないからサッカー部員じゃないのかな。って、サッカー部員だったら、制服でグラウンド走りまわったりしないか。 「そのおにぎり高いから、それ以上買うと予算オーバーだったんじゃないか」 「あ、それあるかも」 「まあ部活前の腹ごしらえにはなるし、あいつ、腹めいっぱい空かせた状態で帰りにコロッケ食うの、好きだからな」 「地味だよねえ」 「地味だよなあ」 でも、そんな話をしながら、グラウンド脇のベンチに腰を降ろして日向ぼっこしてる俺たちも、もしかして同類? 東方はもちろん、南の同類なんだけど……あーやだやだ、絶対やだ! なんで俺まで地味’sの仲間入りしなきゃなんないのさ! 俺はすぐさま立ち上がって、南が走り去ってった方向に向き直る。 「南、遅い!」 「行ったばっかだろ。判爺が職員室に居るとも限らないし」 「そーだけど」 南が遅いせいで、俺まで地味’sになっちゃうよ! 「危ないぞ!」 「え?」 「千石!」 なんか、ザワザワとした空気になって。 名前を呼ばれて振り返ってみたら、サッカーボールが目の前に迫ってて。 「うわ!」 なんてちょっと悲鳴を上げつつ、よけてみたりして。 ボールは鼻先を掠めそうなくらい近くまで来てたけど、間一髪、ギリギリオッケー! う〜ん、やっぱ俺って、ラッキー☆ 「ふふん、見たか、このラッキー千石さまの幸運を!」 「千石、足元」 「へ?」 ぐに。 一歩後ろに下がってみたら、足の裏に変な感触。 あれ、そう言えば。 俺、南から預ったお昼ゴハン、どこやったっけ? 「……あれ?」 恐る恐る、足元を見てみる俺。 予想通り、そこにはいつの間にか放り出していた、南のコンビニ袋がある。 拾い上げて、土掃って、中覗いてみる。 「コロッケパンは?」 「無事であります!」 「サンドウィッチは?」 「無事であります!」 「飲むヨーグルト」 「無事であります!」 「焼きサケハラミ」 「……」 俺は答えずに、袋の中を漁って、焼きサケハラミおにぎりを取り出した。 いや、焼きサケハラミおにぎりだったもの、って言うのが、正解かな? 俺の足跡ついてるし。 袋破けて、つぶれたご飯はみ出てて、土が混じっちゃってるし。 「よりによってそれかよ」 あはははは。 いや、笑い事じゃないんだけど、笑うしか道は残されてないって言うかね。 あはははは。 「おーい!」 ああ、しかも、ジャストタイミングで、南の声と走る足音、聞こえるし。 「鍵、持ってきたから、部室に……」 手を振りながら近付いてきた南は、はじめは笑顔を浮かべていたんだけど、視線が俺の手元に来た瞬間、急に笑顔を消しちゃって、鋭い目つきになる。 鍵を持った手が握りこぶしをつくって、ふるふるとふるえだした。 「何て事しやがった、千石」 「違うよ! 俺じゃないよ!」 って、俺は必死に弁解するけど、なんか南、頭っから俺のこと疑ってるし。 ひどいよ。俺の日頃の行いが悪いからって! 「違うってなら、犯人は誰だ?」 誰だ? って、聞かれても。 誰だろう? 「えーっと……サッカーボール?」 「ボールがひとりで動くかよ!」 ごちん、と。 握り締められた拳で頭を殴られた。 くっそー、なんだよ。 今日の俺、ぜんぜんラッキーなんかじゃないよ! |