ずっとこの日を待ってたんだ、なんて。 そんな言い方はちょっと、おおげさかもしれないけどさ。 気分がすっげー、ばかみたいに浮かれてるのを感じる。 なのに、ちょっと矛盾するかもしんないけど、すんげー落ち着いているって言うか、頭ん中は冷静。周りの空気とか、声とか、ビンビン伝わってきて、いい緊張感を俺に与えてくれる感じ。 挨拶が終わって。 汗だくになった桃と海堂がベンチの方に戻ってくると、会場中の視線が痛いくらいに俺んとこに集まってくる。 ううん、俺に、じゃないや。 俺たちに、だもんな。 「すんませんっした。あとはお願いします」 汗を拭きながらそう言う桃の肩を叩きつつ、 「任せとけって!」 元気いっぱい答えてみてから、少しだけ乾いたノドを潤そうと、俺はドリンクをひとくちだけ。 「よしっ!」 気合も体調も万全。 俺は飛び跳ねるようにベンチから腰を上げて、立ち上がる。 「英二」 「ほいほい?」 「靴紐、ほどけかけてるから、結び治さないと危ないぞ」 あらら。 せっかく気合入れたのに、いきなりコレじゃあ、なーんか気が抜けるよなあ。 ま、忠告はありがたかったから、文句言ったりしないけど。靴紐ほどけたら、俺のアクロバティックの威力はきっと半減しちゃうし(それ以下かもね)。踏んじゃって転んで怪我したら、情けないしカッコ悪いし。棄権しちゃったら二連敗で後がなくなるし。いいコトぜんぜんないもんね。 俺はしゃがみこんで、靴紐をしっかりと結び直して、立ち上がる。 ちょうど同時に、半歩前の位置で、大石が立ち上がってて。 「英二」 「ほいほい?」 「準備は、いいか?」 そう言いながら、静かで力強い微笑みを浮かべながら、振り返るのは。 真田を相手にちょっと腰が引けてる部長さんじゃなくて。 ひとり飴と鞭なんてスゴ技を使う部長代理さんでも、みんなを心配し通しな優しい副部長さんでもなくて。 冷静で、地味なのに(地味だからこそ?)頼もしい、俺のダブルスの相方。 「もっちろん! まさに、完璧パーペキパーフェクトってね!」 まったく、今更何言ってんだよ。そんなの当然だろ? だって俺は大石と違って、二週間も前からずーっと、準備万端なんだからさっ! |