昼休みの中庭を歩いていたら、小さな体がふたつ転がっていて驚いた。 まさか死んでないよねー? と少しだけビクビクしつつ覗いてみると……なんだ、ジローね。眠っているだけか。 「ほら、ジロー、見てみそ! あれ、からあげ! 超うまそう!」 ちなみにもうひとりは、岳人だったようで。 半分どころか80%は寝ているだろうジローの袖をひっぱって無理やり目を開かせて、開いているもう片方の手で空を指差している。 「んあー……ほんとだ……ぐう」 「寝るなよ、コラ、ジロー!」 「んがー」 岳人は体を起こして、眠ってしまったジローの顔を軽く往復ビンタする。 それはここから見ているととても微笑ましい光景なのだけれども、よく考えるとけっこう酷い事してるよねー。休み時間に眠るのは個人の自由だしねー。 「何してるの?」 ジローへの助け船と言うつもりでもないけれど、俺はふたりに近付いて、岳人に話かけてみた。 「あ、滝! 滝も見てみそ! ほら、ここ、転がって!」 岳人はそう言いながら、自分の隣をバンバンと叩く。 んー、そこに寝ると制服とか髪の毛に草が絡んじゃうよねー。 ……まあ、いいか。なんだかよく判らないけど楽しそうだし。俺にとって楽しくなくても、ふたりにとって楽しいモノがなんだか、ちょっと興味があるし。 俺は岳人の指示に従って、岳人の隣に転がった。 眩しい太陽に細めた目の前に広がるのは、青い空。それからもくもくと白い羊雲。地面に近付く事で草の匂いが鼻に届いて、なんだかとても爽やかだなあ。 ああ、うん。綺麗だね。いいもの見てる、ふたりとも。こんなベストプレイス、よく知ってたね? いつでもどこでも寝ているジローの発見かな? 「ほら、滝、あれ! あの雲! 超からあげに似てねえ!? うまそー」 なんとなく綺麗な空に失礼な見方をしているような気もするけど。 「……うん、似てるかも、ね」 そんな事を言ったら、雲なんて全部、からあげに似ているんじゃない、とか、思うけど。 「あと、さっきジローが言ってたんだけど、あれがスイカ」 「メロンじゃない?」 「俺んちはメロンよりスイカ派!」 「……ごめん」 岳人はなんだかみょーに怒っていたので、素直に謝ってみた。 それにしても、中三にもなって、こうして空を見上げて、雲のかたちを何かに当てはめて遊ぶなんて事、するとは思わなかったねー。幼稚園とか、せいぜい小学校の低学年くらいまでじゃないかな、こんな事したの。 でも、たまにはいいかもね。 「ん……」 静かに、微笑みを浮かべながら、弱い風で少しずつ移動する雲を見上げていた俺は、突然視界に岳人のではない手が飛び込んできて、細めていた目をぱっちり開く。 「あれ? ジロー、起きてたの?」 ジローは寝ぼけ眼で頷くと、ゆっくりと一点を指し示す。 俺と岳人は一瞬顔を見合わせたのだけれど、とりあえず、ジローが指し示す方向を見てみる事にした。 もくもくとした、白い雲のカタマリ。 「あれ、うまそー……」 ……。 …………どこがかな? 「あ、判った、わたあめだ! そうだろ、ジロー!」 岳人は得意げにそんな事を言うけれど。 んー……雲なんて結局、全部わたあめだよねー。 わたあめだったとするなら、わざわざあれを指差す必要、ないと思うんだけどなー。 「んーん、ちがーう……」 「えー、じゃあ他の何だって言うんだよ!」 ジローはゆっくりと首を動かして、俺たちの方を見て、70%寝ている顔で、にっかり笑いながら言った。 「ひつじー」 「ってお前丸ごと食うのかよ! 好物だからってそれはないだろ! 肉だけ食え!」 「ぐー」 「言いたい事言ったら寝るのかよ!」 ぺちぺちと、ふたたび軽い往復ビンタの音がする。 けれどジローはまったく起きる気配を見せない。幸せそうに寝息(とイビキの境界線にたつ微妙なモノ)を立てていた。 「やるねー、ジロー。いい夢見てそうだねー。羊、食べてるのかなー?」 「まったく!」 「岳人もからあげ食べてる夢見ながら、寝れば?」 俺がそう言うと、岳人は一瞬ふてくされたような顔をしたけれど、すぐに頭をかいて、元通り地面に寝転がった。 「ふん」 そうそう、そう捻くれずに。 太陽が温かくて、風も気持ちいいこんな日は、ジローじゃなくてもお昼寝日和。 眠っているジローを傍目に、俺も岳人も静かに目を伏せる。 短い昼休みで、いい夢見られたら、嬉しいよねー。 |