「あれ?」 不思議そうな南の声に反応して、俺は振り返る。 さっきまで試合してた地味’sが、ふたりそろって汗を流すために顔洗いに行って、地味〜に帰ってきた。 ちなみに、今はシングルス3で、室町くんが余裕なんだか一生懸命なんだかあいかわらず判んない顔で試合してる。 「なんで千石が居るんだ?」 地味’sのカタワレの南が、帰ってくるなり俺を指差してそんな事言うし。 「なんだよ南〜。俺がカワイイ後輩の応援しちゃいけないって?」 俺がほっぺを膨らまして抗議すると、「かわいこぶるのやめろ。キモイ」と、南は俺を指差してた人差し指で、俺のほっぺをつっついた。 ぶふっ、と音を立てて、俺が口の中にためてた空気が吹き出る。 「して当然だけど、いつもはしないだろお前」 あら〜、痛い事言うのね南ってば。 とりあえずいつもどおり、笑ってごまかしちゃお。あはは〜。 「いつもいなかったっけか?」 東方が疑問に思ったみたいで、俺を指差しながら、首を傾げて南に聞く。 どうでもいいけどこのふたり、「人を指差しちゃいけません」って、子供のころ習わなかったのかなあ? 「男女の会場が同じ時はまず居ないな。自分の試合の時以外は女子見に行ってるから、こいつ。いつも俺、俺の試合終わってからこいつ探しに行ってるだろ?」 「あー、そかそか、そう言う事か。そうだな、居ないな」 あらら、納得されちゃった。ま、ホントの事だからいいけどね。 「それで? お前なんでここで室町応援してんの? 向こうの会場で女子、試合してるぜ?」 「南ってばそんなに俺がじゃまなの? ひどいっ、俺さびしいっ!」 「泣くな。ウザイ」 げしっ、と南は俺の脇腹を蹴った。 くらったダメージから本気じゃないのは判るんだけど、ちょっと俺、切ないよ、南。あーあ、ユニフォームにくっきり足跡ついちゃった。洗濯しといてねって南に押し付けちゃおうかなあ。 「まあさ、俺もさ、朝まではいつもどおり女子会場に行こうと思ってたんだよね」 「うん」 南は腕組んでえらそうにふんぞり返ってるけど、東方は肯きながら聞いてくれる。背高くて体でかいし顔濃いからアレだけど、東方ってけっこうカワイイって言うか、純真なやつだよな? 「で、朝出かけにテレビつけて、占い見たわけ」 「うん」 「そしたらさ〜、今日の射手座、恋愛運最悪なんだよね〜。金運も悪くてさあ、トータル運も十二星座中最悪。そう言えばさあ、昔十三星座って一時期すっげー話題になったよね。アレどうなったんだろ。ふたりは十三星座だと星座変わった?」 「おいおい千石、話ズレてるぞ」 ビシッ、と東方に裏拳でツッコまれた。うわっ、東方にツッコまれるって、俺ってすごくない!? 「あ、ほんとだ。まあそう言うワケで、女子の会場行ってもダメかなと思って、ここでおとなしく室町くんの応援してんの。判ってくれた? 南」 俺がにっこり笑ってそう言うと、南はちょっぴりため息吐きながら微笑んで、肯いてくれた。 「ゲームセットウォンバイ山吹中・室町! ゲームカウント6−2!」 丁度、山吹中の勝利を告げる審判の声が聞こえてきて。 「うしっ!」なんて言いながら小さくガッツポーズ決めてこっちを見る室町くんに、俺たち三人揃って手を振った。 それから南が、ボソッと一言。 「お前のその調子じゃ、たとえ恋愛運が最高でも、女子は釣れないと思うけどな」 ……。 とりあえず、試合を終えて戻ってきた室町くんに泣きついてみた。 |