うちのテニス部のやつらは、男の割にきれい好きだったり、整理整頓が得意だったりするやつが多いなあと思う。清潔感に溢れてるって言うのかな? 海堂とかよく桃に「お前の部屋じゃねえんだから片付けろや!」とか怒ってるけど(そしてケンカになって、余計に部室が汚くなるんだけど)、桃くらい適当なのが普通だよね。いやまあ、片付けた方がいいに決まってるんだけど。 割とみんななんだけど、特に手塚とか、大石とか、不二とか。制服はいっつもぴっしりしてるし、ジャージは白いところは真っ白だし。青いところは真っ青だし、赤いところは真っ赤だし。自分で気にしてるのか、お母さんが気にしてるのかは、よく判らないけど。 でも、いくら綺麗にしていても、やっぱり違うなあ、と。 おろしたてのジャージに袖を通しながら俺は思ったわけだ。 「お、タカさん。似合ってるね」 なんて、ちょっと緊張気味の俺の肩を叩いて、微笑みながら大石が言った。 「そ、そう? ならいいんだけど。ははは……」 なんだか少し気恥ずかしくて、俺は頭をかきながら答えて、それから大石のジャージを見下ろしてみたりする。 大石がこのジャージを着はじめたのって、いつだっけ? 二年の途中でサイズ変えしていた気がするけど、それでも半年くらいは着てるのかな。毎月じゃなかったとしても。 すごく綺麗にしてるけど、やっぱり少しくたびれていて、何より大石にすごくなじんでいて、それが大石の実力とか今までの実績とか、そう言うものを示しているように思えた。 今はじめて袖が通った俺のジャージとは、やっぱり違うなあ。 「どうしたんだい?」 「い、いや、なんでもないよ」 ぼーっとしていたのが気になったのか、少し心配そうに俺の顔を覗き込んでくる大石を笑ってごまかして(ごまかせるとは思ってないけど)、俺は脱いだ制服をロッカーに押し込む。 その時に、ふたつくらい隣で、みっつくらい下のロッカーを使ってる、越前が目に入った。 唯一の新品ジャージ仲間。 テニス部に入った日は全然違うから、一緒にするなって越前は思うかもしれないけど。 「やぁ越前。レギュラージャージの着心地はどう?」 なんだか俺が声をかけたのは唐突だったみたいで、越前はびっくりしたみたいだ。大きな目をもう少しだけ大きく開いて、俺を見上げてくる。 「どうって……別に普通ッス。ああでも、体育のジャージよりはいいかも」 ……普通、かあ。 やっぱり、入部してすぐにレギュラーになっちゃう越前くらいになると、ジャージひとつで緊張したりなんてしないか(俺が緊張しすぎなのかな?)。 これから長い間、越前の小さなジャージには、たくさんのものが刻まれていくんだろうな。来年の新入部員や、再来年の新入部員からの、たくさんの尊敬を集めるものが(あ、でも、越前も身長伸びたらサイズ変えするから、このジャージにとは限らないか)。 俺に残された時間は、越前に残された時間に比べると、ずいぶん少ないけど。 負けないだけのものを、残せるといいな。 残したい。 「越前」 「はい?」 「一緒にがんばろうな!」 「……はぁ」 「こらこら」 ぽふ、と、越前の帽子の上に、大石の手が軽く乗る。 「そこは元気よく『はい!』だろ?」 「はいはい」 「はいは一回だ」 大石は、ゆるく作った拳で軽く越前の頭を小突くと、いつもより少しだけ子供っぽく微笑んで、部室を出ていった。 なんだか恨みがましそうな、不満げな目で、俺を見上げる越前。 うーん。そんな目で見られても、俺がごめんって言うのはなんかおかしいし。 「じゃあ、俺たちも行こうか」 俺はそう言って笑いながら、越前の小さな背中を押す。 越前は少しずれた帽子を被りなおしてから、しぶしぶと歩き出した。 |