乾いた大地がひび割れて、悲鳴を上げるように。 乾いた心もまた、ひび割れて泣き叫ぶに違いない。 だとすれば。 通学の途中にある空き地は、もう何年も放置されていて、誰か世話をしている様子もなく、雑草が生い茂る中に投げ捨てられたゴミが溢れているような、そんなところだ。 厳しい残暑。今日も朝から太陽の光が強く地上を照らす。 馬鹿みたいに日当たりのいいその空き地は、もう十日以上も雨が降っていなかったせいか、ずいぶんと干からびている。まともな花が咲いているなら、近所の暇そうな主婦が水遣りの世話くらいしたのかもしれないけど、どこにでも生えている小さな花じゃあ、そんな事しないよね、普通。 くたりとしおれた名前も知らない花。 弱々しく地を這う草。 水気のなさを見せつけてくる、土に走る小さなヒビ。 どうしてか、俺はそれらから目が離せないでいる。 はっと気付いたのは、学校の予鈴が聞こえてきた時だ。 いけない、こんな汚い空き地のために、俺、うっかり足を止めてるよ。馬鹿じゃないの。神尾じゃあるまいし。 まあここからなら教室まで歩いて五分くらいだしね……遅刻する事はないからいいけどさ……ちょっと走らないといけないよなあ……面倒くさい。自業自得だから仕方ないけどね。 俺は空き地に背を向けて、学校へ向けて走りはじめた。 「深司ー、今日の練習、中止だってよ。さっき橘さんが言いに来た」 ホームルームが終わってすぐに報告に来たのは、神尾だった。 窓の外を覗いてみると、夏特有の通り雨が、地面を激しく叩いている。 「なんで? このくらいの雨、すぐにやむんじゃないの?」 「んな事言ったって、橘さんが決めたんだから仕方ないだろ」 ……まあ、そうだけどさ。 橘さんと直接会ったなら、理由を聞くくらいの事、できないのかなあ……気がきかないよね神尾って……ああ、頭が悪いだけか。 まあこんなに酷い雨じゃあ、雨がやんでからもコートの状態は酷そうだから、そう言う事かな。こう言う時、設備の整った学校はずるいと思うよね。雨がやんだらすぐに練習ができるし。 「判った」 俺は頷いて、荷物を手に教室を出る。 練習がないなら学校に居てもしょうがないしね、早く帰ろう。 帰ったところで、何するわけじゃないけどさ。 「あ、待てよ深司! お前、傘持ってる?」 「持ってるよ。じゃなきゃ帰れないだろ」 「じゃあ、途中まででいいから入れてってくれよ!」 「ひとり用だから無理。じゃあね」 「傘は誰だってひとり用だっつうの!」 背中から神尾のうるさい声が聞こえるけど、無視。 どうせ一時間もすればやむんだから、学校で雨宿りでもしてけばいいよ。 帰り道に、また、例の空き地の前を通る。 十数日ぶりの雨を浴びた雑草たちは、朝の情けない様子はどこへやら、生き生きと空に向けて伸びている。 土に刻まれたヒビも、雨で潤ったために気付けば消えていて。 あー……。 なんか、判っちゃった気がするなあ……朝、うっかり足を止めた理由。 「深司?」 聞き慣れた声に名前を呼ばれて、俺は振り返った。 声の主は、ちょうど今、頭に思い描いていた人と同じだったから、少し驚いた。 「橘さん……どうしてこんな所に」 「部活が休みだから、ちょっと買出しにでも、ってな」 「そんなの、俺たちの誰かに言えば……」 「いいんだ、どうせ暇なんだからな。それよりお前こそこんなところで足止めて、何してんだ?」 橘さんは少し不思議そうに、きょろきょろと辺りを見回す。 まあ、そりゃ、不思議だよね。 この辺に足を止めるようなもの、あるように見えないからね。 とりあえず俺は正直に、俺は目の前の空き地を指差す。 「ちょっと、そこの空き地を見てました」 橘さんはいっそう不思議そうに、空き地に視線を注いで、 「……おもしろいか?」 と聞いてきた。 まあ当然だよね。 でもなあ……おもしろいかって言うのは、ちょっと微妙な問いかけだよなあ……つまんないわけじゃないんだよなあ……でもおもしろいって答えるのもおかしいしなあ……。 やっぱり正直に、答えておこうかな。 「そこを、見ながら」 「おう」 「橘さんは通り雨みたいな人でもあるんだなあ、と思ってました」 |