冷たくて、それからちょっとだけ痛くて息苦しくて。 すっげー気持ち良く寝てたのに、目が覚めちった。 でもやっぱ眠くて、薄目をあけるだけにしてみたら、なんかバケツもった樺地が見えて。 あー、目覚めにいきなり樺地って、ちっとびっくりかなー。 「ふわぁあ。もー、何すんのさかばじー……」 「いいかげん起きろ、ジロー!」 うわあ、樺地ってばいつのまにそんな饒舌に。 ……んなわけないかあ。どう聞いても跡部の声だね、これ。 「あとべー、いくらなんでもいきなり水ぶっかけるのは酷くない?」 「うるせえ。俺様と試合がしたいって言ったのはお前だろうが。そのくせ俺様を待たせるなんてどう言うつもりだ」 あー……。 言った言った。気が、する。うーん、言ったっけ? まあどっちでもいいや。 俺が言ったにしろ言わないにしろ、跡部が試合やる気になってくれるのなんてそうないもんな! うっわー、楽しそー! 「ごめんごめん。今起きる。樺地、俺のタオルとって」 「うす」 「取ってやる必要ねえぞ樺地。ジロー、自分で起きて、自分でやるんだな」 「う、うす」 あーなにそれ。もしかして跡部、俺が起きてるかどうか疑ってんの? まあまだ半分寝てるから、そう思われてもしょうがないけどさ。疑わCってねー。 「判った、自分でとる」 「判ればいいんだよ」 「かばじー、俺をタオルのとこまで連れてって」 「判ってねえじゃねえか!」 あー、いきなり耳元で叫ばないでよ跡部ってば。耳痛いじゃん。 俺は両耳を手で押さえて、キンキンするのが治まるまで、ちっと待ってみた。 「そんなに怒らなくてもいいじゃん。いいじゃんちっとくらい樺地借りたって。って言うか、ちょーだい?」 「絶対やらねぇよ」 別に俺だってもらえるなんて思ってないってば。って言うか、樺地ってやりとりしていいもんじゃないよね多分。人間だし。 「跡部ってばわがままだなー」 「あん? 今何つった?」 「だってさー、ずるいじゃん。樺地独占していいように使っちゃって。俺とか樺地の意思なんてぜんぜん聞かないで、自分の所有物みたいにさー。ずるいぞー!」 「……なんで俺様がお前の意思を聞かなきゃならねぇんだよ」 あ、ほんとだ。そりゃ、ごもっとも。俺が間違ってましたー! でもでも。でも、さ。 「跡部はずるい」 「なんなんだ、今日のお前は。いつもおかしいが今日はいつも以上におかしいぞ」 いつもおかしいは余計だっての。 って言うか、跡部にだけは言われたくないよ。色々おかしいじゃん跡部って。 俺は、ほっぺたを膨らませながら、水を含んで重くなってすんげー邪魔になった髪の毛をかきあげる。 「だってさ、跡部は、自分がすっごく幸せなんだって、判ってる?」 「あーん? 当然だろ。俺様ほど恵まれた人間が、他にどこに居るってんだ」 「そうじゃなくって!」 俺はようやく、上半身を起こした。 「そうじゃなくって……」 顔がいいとか成績がいいとか家が尋常じゃないほど金持ちだとかテニスが上手くてJr選抜だとか、そんなんじゃなくって。 そんなのは、どうでもよくって。 俺は、俺たちの間にぬぼーって立ってる樺地を見上げてみる。 「判っている」 「え?」 「判っているって言ってんだ。さっさと準備しろ、ジロー」 あ、そうなんだ。 なんだ、そうなのか。 けっこう、報われてるんじゃん、樺地も。 「よろC!」 俺はめいっぱい腕を伸ばして、跡部の頭をぐりぐり撫でてみた。 「触んなジロー! 俺様まで濡れるだろうが!」 「跡部がやったんだからじごうじとくだろー」 「黙れ」 ぐほっ。 うわ、跡部、マジで腹に蹴り入れた。容赦ねえやつ……。 ま、今日のところは、許してやっけどさ。 ちょっと照れてるっぽい、おもしろい跡部も見れたしね。 |