カッコ悪い俺

「心に少し隙がありました」と、試合に負けたあと判爺に言われてしまった。
 そうなんだろうなあとすぐに納得して、何も言えずに頷いた俺たち。
 去年大石を倒したから。だから、今年も勝てると思った。勝てると思って油断して、隙を見せて、それで負けた。
 ……そう言う負け方って、ハッキリ言って。
「カッコ悪いよな、俺たち」
 ボソッと呟くと、それまで真剣な目で千石の試合を見守っていた南が、俺を見上げた。
「あ、悪い、応援の邪魔した」とすぐに謝ろうと思った俺は、一瞬南が見せた、迷った感じの表情に戸惑って、言葉を飲み込む。その間に南は、不可思議な表情を消して、なんでか笑いはじめた。
「ああ、ホント、カッコ悪ぃな、俺たち」
 笑って言う事じゃないだろう、それは。
「そんでもって、『カッコ悪いよな』なんて言いだすお前、もっとカッコ悪ぃよ」
「……悪かったな」
 自覚していたからこそ、ツッコまれるとムカつくんだよな。まあ南に悪気はないんだろうけど。
 俺は南から目を反らして、千石の試合に目をやった。
 試合の流れを自分の方向へ変える、千石の力。ひとりでコートに立って、相手選手をにらみつけて。
 千石と俺たちを遮るフェンスを、俺は無意識のうちに握りしめていて、ギリギリギリ、と小さく音がなった。
「……でもさ」
 ふと、南が言葉を紡ぐ。
 俺は手に込めていた力を抜いて、フェンスから手を離す。
 再び南を見下ろすと、やっぱり南は笑っていた。
「今の試合の俺らがカッコ悪かったって認めて、反省する姿勢って言うか……そう言うのは、きっとカッコ悪くなんかないよな」
 それは南なりの慰めなのか、なんなのか、イマイチ計りかねた。
「ああ、そうだな」
「むしろカッコいいくらいだよな」
「そこまで言うとちょっと空しいから止めといた方がいいと思うぞ」
「……だな」
 けれど。
 うん、そうだ、きっと。南の言う通りだな。
 俺は気が付くと、南につられるように微笑んでいて、それをごまかすように視線をコートの中の千石に向けた。


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