多分みんな夏は好き。 海って言ったらやっぱり夏だし。冬の海も荒々しくてカッコいいかもしれないけど、やっぱり泳いで楽しい、(オンナノコを)見て楽しい夏が一番に決まってる。 昼間は力一杯泳いで、(見学して、)夜になったらしんみりと、花火なんてのもおつだしね。 「楽しみだねー、花火」 ボクは(まだ火のついてない)ロケット花火を手の中でもてあそびながら、夕日が沈んでいく様子を眺めていた。 早く落ちきってくれないかなあ。やっぱ花火は真っ暗闇の中でやらないとねっ。 「でも、どうして花火は夏の風物詩なんだろう」 冷やしていたスイカを切り分けつつ、つまみ食いの間の手から守りながら、サエさんが言う。 ようやく全部切り終ったのか、「はい、いいよ」ってサエさんが合図すると、あっと言う間にスイカが半分消えてった。やばっ、ボクの分なくなっちゃうよ! ボクはロケット花火をその辺に投げ出して、スイカを両手に持って、片方にかぶりつく。あ、そう言えばサエさんとの会話、途中だったっけ? 「何か夏っぽいし、いいんじゃないの? 夏で」 サエさんはスイカ片手にボクの隣に座りこんだ。 「うーん、そうなんだけどね。でもやっぱ、夏は夜が短いだろ? 完全に暗くなるまでの待ち時間に、イライラするじゃないか」 「サエさん、けっこう短気なんだね」 「いや、俺じゃなくてさ」 サエさんはあいてる片手で指差した。 ボクはサエさんの示す先に視線を移して――あ、バネさんとダビデ。どうやら夜が待ちきれないみたいで、ヘビ花火に火、点けてる。 「ヘビ花火ってどこに火ぃつけていいかイマイチ判んねーよな。暗闇だと余計に。だからこれは夜にやるもんじゃねーと思うんだよ」 「うぃ」 「お、ついたついた」 煙がたって、小さかった花火が、うねうねと伸びはじめる。 これ、誰が考えたんだろう……すごい発想力だよなあ。ちょっと尊敬しちゃうよ、ボク。 「ヘビ花火って、おもしろいとは思うけど」 「ん? どしたのサエさん」 ボクは皮だけになった片方のスイカをゴミ袋に投げ入れた。 「あれを花火と呼ぶのは花火に失礼じゃないかと思うんだよなあ」 うーん……確かにそうかもなあ。どこが花でどこが火なんだよ、ってちょっと思うよねー。でもま、おもしろければいいよ! 「終わった……」 ダビデの寂しそうな声に振り向くと、ヘビ花火は伸びきっちゃったみたいで、それ以上動こうとはしなかった。 なんか。終わったヘビ花火ほど、扱いに困るのってない気もするなあ。何て言うか……切ないよね、この燃えカスみたいなの。 「あー、暇だなあ。なあ、剣太郎、サエ、もうそろそろはじめてもいいかー?」 「まだ全然暗くなってないだろ」 「日が落ちるまで待ってたら、日が暮れる」 「お前それは日本語が判ってないだけか? それとも新手のギャグか? あ?」 答えを聞く前にツッコミ(後頭部へ蹴り)を入れるのは、新手のツッコミなの? バネさん。 「ヘビ花火まだ残ってるだろ。それで遊んでなよ」 「いや、ヘビにはもう飽きた!」 そんな堂々と言われてもなあ。 そりゃボクだって今すぐ花火したいからさ。ボクが太陽の動きを決められたら、今すぐ陽を落としちゃうけど、こればっかりはどうも。 「どうする? 剣太郎」 サエさんはボクの方に振り返った。 うーん。どうする? って聞かれてもなー。 「ボクもさー、退屈だからバネさんの意見に賛成なんだけど、明るい所で花火やっても、やっぱつまんないしなー」 うんうん、とサエさんは頷いた。 「じゃあ明るい所でやってもおもしろいのだけやろうか」 「ヘビ花火?」 「それもあるけど、アレはもう飽きたんだろ?」 サエさんはスイカの皮を捨てて。それで、さっきボクが投げ捨てたロケット花火拾って、一本だけ右手に持つ。 「バネ、チャッカマン貸して」 「ほい」 そんで、チャッカマンを左手に持って。 「ダビデー、逃げないと死ぬよー」 「ちょっとタンマ、サエさん! それ無し! それはマジヤバイから! って言うかバネさんとか剣太郎とかがやる事でサエさんがやる事じゃないから!」 ダビデは必死にサエさんを止めようとしているんだけど。 「あんまり平部員がわがままで俺もイラついてるんだよね。だからストレス解消」 うわあ、サエさん、それじゃいつもストレスためてるみたいじゃん。そんなキャラじゃないのにねえ。 「わははー、もっとやれやれ、サエ! ってか俺にもやらせろ!」 「バネさん!」 「大丈夫だって、お前頑丈だし」 「無理!」 ふたりから、まだ点火されてないロケット花火を向けられて、浜辺を逃げ回るダビデ。浜辺中に広がる、みんなの笑い声。 あー、なるほど。 こんだけおもしろければ、日が落ちるまでの退屈しのぎにはなるかもね。 |