ライバル

 遠くからものすごい勢いで走ってくる足音。
 まったく誰だようるさいなあ、と思っていた俺だけど、その足音が俺のすぐそばで止まって、足音の主が俺を振り向かせるために肩をつかんだ所で、誰だか思い知らされた。
 左手に白い紙を持ってる神尾は、さっきまで俺の肩に置いていた手で、俺に指をつきつけてくる。
「いいか、深司! 勝負だぞ!」
 ……勝負する事が当然、とでも言いたげな口調。
「あのさあひとりで勝手にリズムに乗って話進めるの、やめてくれない? ものすごく迷惑なんだよね。俺別に神尾と勝負したいとか思ってないしさぁ……」
 って、神尾、聞いてないし……と言うか、もう居ないし。勝手に勝負宣言したかと思えば、またリズムに乗ってどこかに行ってしまった(多分クラスの列に戻ったんだろう)。
 なんなんだろうあいつ。本当にウザイ。なんとかなんないのかな。
 ほんとどうでもいいよ……身長なんてさ。

「じゃーん! 見ろよ深司! 百六十五センチ!」
 放課後、部活の前に、神尾はピラピラと俺の目の前に今日の身体検査の結果表をちらつかせた。開いた片手は腰に置いて、なんか勝ち誇った笑み浮かべて、ふんぞり返ってる。
 なんなんだろうこいつ。ほんと馬鹿。
「ふーんそれはよかったねおめでとうじゃあそう言う事で」
「お、おい! 深司、お前はいくつだったんだよ!」
 どうでもいいじゃんそんなの。
 とは思ったけれど、神尾はさっき勝手に勝負宣言してたし、じゃあこっちの数字も教えないと納得しないんだろうな……。
「ほんとウザイよなあ神尾。人の身長なんてどうでもいいだろ。こう言うのってプライバシーの侵害とかにならないのかな……神尾の身長だって別に聞きたくないのに聞かされてさあ、ほんと迷惑だよ」
 ボソボソと呟きながら、俺は神尾の目の前に、俺の結果表を掲げる。
「……!」
 神尾は驚いて、さっきまでの笑顔を消し去った。
 俺の身長も百六十五センチ。つまり、神尾と同じなんだよね……まあ、四捨五入すればって条件付だけど。
「へー、深司の方が高いのか」
 いつの間に近付いてきていたのか、俺と神尾の身長を見比べて、桜井が言う。
「う、うるせえぞ桜井! たった三ミリしか違わないだろ!」
「たった三ミリでも神尾の負けは負けだよ。自分から勝負を挑んできて、勝つ気満々だったのに負けるのって、無様で恥ずかしいよね。存在自体が恥だよ……大体さあ、はじめから同レベルの人間としか勝負しないなんて、小物の証拠だよね……石田とか橘さんに勝ってみろって感じだよ……まあ神尾には一生無理な話だろうけどさぁ……」
「てめえ、深司!」
「やめろって、ふたりとも!」
 暴れ出しそうな神尾を抑えて、桜井が言う。
 ふたりともやめろって……俺別に何もしてないよ……? 神尾が勝手に勝負挑んできて勝手に負けて腹立ててるだけだよな……?
 なんか世の中って不条理でむかつくよなあ……。
「くそっ、二学期は絶対に勝ってやる! 覚えてろよ!」
 負け犬代表みたいな捨て台詞を吐いて、神尾は部室を出て行った。
 あー……なにそれ。つまり二学期も勝負するってまた勝手に決めてるわけ?
 ……。
 …………。
 陸上部あたり、神尾を攫ってくれないかなあ……。


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