「今日のお昼は屋上に集合だ!」と英二が言ったので、俺は昼のチャイムがなると、弁当を手に、手塚を誘って屋上へ向かった。 十二月も上旬、寒くてしょうがないこの時期、わざわざ好き好んで屋上で昼ごはんを摂ろうなんて奴は居ないんだろう。俺たちが到着した時には、英二と不二の姿しか見えなかった。 「へえ。手塚もちゃんと来たんだ」 「英二が『ほっといたら手塚来ないから、ぜったい連れてこいよ』って俺に念押ししたからな」 「なるほどね。納得」 手塚はめんどくさそうに適当な所に腰を下ろすと、弁当を開ける。微妙に英二から離れた所に座っているのは、たまたまなんだろうか、それともわざとなんだろうか。 とりあえず俺は、手塚の隣に座ってみた。 「で? 英二。なんで俺たちを屋上に呼んだんだ?」 「まだ秘密〜! だって全員揃ってないもん」 「揃ってないって……あと誰を呼んだん……」 俺が疑問を全て口にし終わる前に、校舎内に続くドアが音もなく開いた。 出てきたのは、海堂。 海堂も呼んだのか。英二にしてはめずらしいな。桃や越前と仲良くしているのはよく見たけれど、海堂と話しているところなんてほとんど見なかったから、苦手なんだと思っていたよ。 「おー! 海堂! 待ってたぞ〜」 ネコを呼び寄せるように、海堂に向けて手招きする英二。だけど海堂はどうも英二が苦手らしく、手前に立っていた不二の方に近寄った。 「何スか、重要会議って」 不二は意味ありげな笑みを浮かべ、肩をすくめる。 そうこうしているうちに、乾、桃、タカさんと順々に現れ、最後に越前が現れると、英二は全員の中心に立ち、皆を座らせた。 「じゃじゃじゃーん、大発表!」 口で効果音を付けて、派手に演出をする英二。俺の隣では手塚がマイペースに弁当を食べ進めているので、俺も一緒になって箸を進める。 「えっとね、今度のクリスマス・イブに、クリスマスパーティやるんだ! 場所は海堂んちで、海堂の部屋! 皆絶対来いよ!」 「パーティ……?」 「は? アンタ何言ってんスか?」 海堂が心底不快そうに、英二に尋ねた。多分、彼も初耳だったんだろう。 「だって乾のデータだと、海堂の部屋が一番広いんだもん」 「いや英二、広いから海堂の部屋でやりたいって思うのは判るけどさ、企画を発表する前に、本人に許可をとろうよ」 タカさんのごく常識的な忠告が、妙に新鮮に俺の耳に届いた。 「あ、そーか。ごめんごめーん。でもいいよなっ、海堂!」 「……」 海堂は目を伏せて、眉間に皺を寄せた。「イヤって言っても無駄なんだろどうせ、だったら聞くんじゃねえよ」オーラが漂っている。 「ごめんな、海堂」 俺が謝ったからって、機嫌直るとは思わないけどさ。 「やっぱ突然言われても困るよな。俺から英二に行っておくから、場所変えるように」 「……いいッスよ別に。大石先輩のせいじゃないッスから」 もう完全に諦めモードだ。黙々と弁当を食う姿が痛々しい。 かと言ってここで俺がしゃしゃりでて場所を変更しても、「余計な事すんじゃねえよ」とか言ってすごまれそうだしなあ。うーん、海堂は繊細だから難しい。 「ところで菊丸、これはどう言う人選なのかな?」 乾がデータノートを左手に、シャープペンを右手に持って英二に詰め寄る。こんな事聞いても大して有効なデータはとれないと思うんだけど、それでもノートに取ってしまうのは、もう習性なのかな。 「んー、最初はさ、三年だけ誘おうと思ったわけ。で、ホラ、俺乾に皆の部屋の大きさのデータ見せてもらいに行ったじゃん? したら、不二と大石と手塚の部屋があんまり差がなかったんだよね。で、もっと見てみたら、海堂の部屋がケタ違いにでかいこと気付いてさ!」 気付くな英二、そんな事に。 「でも二年から海堂だけ誘うのもおかしいじゃん? だから、そーいやおチビの誕生日だったなあと思って、おチビと、盛り上げ役に桃も誘ってみた!」 「そうか。予想通り単純な人選だな」 「なにお、乾ー!」 そうして、英二対乾の口論がはじまった。口論とはいっても、感情に任せて思うが侭に言葉を並べる英二と、理論整然とした乾では、まともな勝負になるわけもないのだけど。すぐに英二が癇癪起こすか上手く回避して、終わりじゃないかな ま、悪意のこもった争いでもないし、喧嘩するほど仲がいいって事で、これは放っておこう。コートの中じゃないから手塚もグラウンド○周命じたりしないだろうし(そもそももう部長じゃないから、しないか)。 「手塚、俺お茶買う暇がなくて飲み物がないんだ。一杯もらっていいか? ほうじ茶だよな?」 手塚は頷き、魔法瓶からほうじ茶を注いでくれた。 お茶からたち昇る暖かい湯気が、ゆっくりと空を目指す様を眺めて。 冬は寒いからついつい室内にこもってしまうけど、やっぱりいいよな、外での食事って。開放的な気分になるけれど、ゆったり落ち着く。 「うわ〜ん大石ぃ! 乾がいじめるよ〜」 ……平和な空気が続けば、だけど。 「英二、なんでも大石に泣きつけばすむと思っているからいけないんだよ?」 「だって実際、大石に泣きつけばすむじゃん! お前らだって本気で大石に逆らえないだろっ!」 「そんなふうに要領いいからムカついて、余計に苛めたくなるんだよ」 ふふ、と不二が笑い、場の空気が凍り付いた。 俺は、俺よりも不二に逆らう方が怖いと思うけどなあ……なんとなく。 「とりあえず英二、パーティの話を続けようよ。イブに海堂の部屋じゃ、あまりにもアバウトすぎるだろう? 時間とか、食べ物の準備とかくらい決めておかないと。海堂や海堂の家族にできるかぎり迷惑かけないようにしないとな」 「あ、そうそう、時間はねー、六時にしようかと思ってるんだよねー」 「ちょっと聞いていいッスか?」 食後のファンタを飲みながら、越前が口を挟んだ。まったく、炭酸ばっかり飲んでいたら体に悪いっていつも言っているんだけどなあ。聞く気ないみたいだ。 「はい、おチビ!」 「そのクリスマスパーティとか言うの、強制参加ッスか?」 「別にそうじゃないけど、幹事の俺と不二、場所提供の海堂、主役のおチビ、ゲーム提供のタカさん、盛り上げ役の桃は絶対来てもらわないとにゃ!」 「ほとんどじゃないッスか!」 「あ、ほんとだ〜」 英二は桃のツッコミを笑顔で流した。そしてふたりでがはがはと大声で笑って。 ……もう一回、ツッコミ入れた方がいいのかな、俺とか、もしくは乾が。 「じゃあ俺は欠席してもいいのかな?」 俺が考えているうちに、乾の質問が入った。ツッコミとは言いがたいけれど。 「うんにゃ、乾は買い出し班班長。無駄なく沢山買ってくれそうだろ。で、俺と桃が荷物持ちで手伝い! タカさんは荷物重いだろうし、海堂は場所提供してくれっから、免除。大石と手塚は不二と一緒に、おチビが遅刻しないように海堂んちに連れてくる係〜」 「その人選の心得は?」 「英二や桃だと越前になめられるかと思って、僕が提案。それに大石が居れば、はじめて行く海堂の家に迷わず着きそうだろう?」 「さすが不二。隙がないな」 乾が眼鏡をなおしながら怪しく笑った。 「当然、英二じゃあるまいし」 不二もいつもの微笑みに、ほんの少しだけ含みを混ぜて。 「にゃ〜、不二っ! 乾!」 ふたたび、英二の乾(&不二)に対する、不毛な挑戦がはじまった。 さて、今度はどれくらいで決着をみるのかな。 |