死が二人を分かつまで

 俺はさ、うきうきしてたんだよ。
 だって今日の夕飯、お好み焼きだよって、朝に言われてたからさ!
 そりゃもう、お腹すかせるためにはりきって部活やっちゃったよね。お昼も余分に食べなかったし。今日は誰に誘われても寄り道しないよ。まっすぐ家に帰って、お好み焼き焼いて、食べんの!
 俺は世界中のラッキーを集めてハッピーな気分だったからさ、だから余計に、気になっちゃったのかもなあ。
「明日の練習……九時から六時までか……」
 力無く呟く東方に違和感を感じて俺が見上げると、東方を挟んで向こうに居る南も同じだったみたい。少し心配そうな顔して東方を見上げている。
 東方ってば、ちょっと思いつめた顔してるようにも見えるなあ。
 なんだろ。明日の練習、イヤなのかな? 何か微妙な予定が入ってるとか、ダルくなっちゃったとか?
 俺なんてそんなのしょっちゅうだけどね。予定が入ってるにしても、ダルくなったのしても、一日くらいさぼっちゃえばいいのに。南が地味(単数形)になっちゃうのはかわいそうだけどさ! 気分が乗らないのにムリヤリ練習するのは良くないよ!
 とか言うと、南に怒られちゃうんだけどね。「言い訳するな!」って。
「どうかしたのか?」
 しばらく東方を見守っていた南は、東方が何も言わないし何も動かないしで、耐えきれなくなったのかな。更に心配そうな顔になって、そう聞いた。
 すると、東方は弱々しく笑った。弱々しいって言うか……うーん。
 ちょっと照れてんのかな?
「いや。明日の練習、昼飯挟むんだなって思っただけだよ」
「……それが?」
 俺が追い討ちをかけると、東方は黙り込んで、ぽりぽりと頬をかいた。
 ん、やっぱ、照れてるみたい。
「俺、ちょっとした夢があるんだよ」
 俺はちょっとびっくりした。南も、ちょっとびっくりしてた。
 だってさ、いきなり夢を語られちゃうんだよ? え? 今俺たち、そんな大きな話してた? って感じじゃない?
 あ、でもそっか。俺が勝手に、「ちょっと」思いつめてるって思っちゃったんだ。そう見えるだけで、「すっごく」思いつめてたのかな……?
「学校で」
 ぽつり、ぽつりと、東方は語りだす。
「うん」
 俺も南も、真剣な目で東方の言葉を待っていて――。
「宅配ピザ頼みたいなあって……」
「えー!」
 俺はかなりびっくりした。
「東方……」
 南も、かなりびっくりしてた。
 そりゃ南だってびっくりするよ! 何その地味な夢! いやね、確かにさ、東方は「ちょっとした」って言ってたよ! 言ってたけどさ!
 いくらなんでもちょっとしすぎだよ! ってか、夢なんてたいそうな言葉使うトコじゃないよ!
 あーびっくりした。
 あれ? でも、こんなびっくり、最近もあったような……?
「……俺もだ」
「えええーーーーーーー!!」
 俺はすっごくびっくりしちゃって、悲鳴みたいなの上げて、部室中の注目を集めた。
 思い出した! あれだ! 南の野望! ワンホールのケーキに直接フォーク入れたいって言ってたヤツ! あれ聞いた時と同じびっくりなんだ!
 あーびっくりした。すごい。この二人、ほんとすごいよ。
 きっとどっちかが死ぬまで、地味に気が合って、地味な野望や夢をちまちま叶えながら、地味に楽しくやっていくんだろうなあって、そう思った。

 羨ましいかもしれないなあって、ちょっとだけ思ったけどさ。
 それはまあ、次の日部室で食べたピザが美味しかったから、すっかり忘れちゃったよ。


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テニスの王子様
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