毎日が楽しいなって思う。 充実していると思うし、幸せだと思う。 まだ十四歳になったばっかだってのに、こんなに幸せかみしめて生きてんのもどーなんだ実際とかちょっと老けこんだ気持ちになる事もあるけど、だからこそフツーに平凡に過ごしているヤツらより俺は幸せなんだろうなあとか思うし。 俺と同じ学年で、同じ部活に所属してる仲間たちは、みんな俺と同じように感じてるんだろう。表情とか見てりゃ判る。特にアキラとか石田とか、判りやすいしな。 でも、そんな幸せに浸ってる俺たちを、戒めるためなのか、なんなのか。 誰かがときどき、思い出したように言いだすんだ。その役目を背負うのは、石田だったり、アキラだったり、内村だったり森だったり、俺だった事もあるけれど。 「一年前はこんな日がくるなんて、思ってもいなかったよなぁ……」 なんとなく、深司がその役目の時が多い気がする。 別に誰かがこの役やれよって押し付けあってるわけじゃないし、そもそもそんな役目が存在している事自体、みんな気付いてないんだろうけどさ――深司は、判っててその役目を買って出てる気もするけどな。みんなのためと言うより、自分自身のために。 部活の合間のほんの十分の休憩時間、今日もみんなで笑いあいながら、くっだらないことしゃべってた。アキラのクラスで授業中寝ぼけて先生にあてられた時にへんな解答をしたヤツがいたとか(「こんなヤツが居たんだ」ってアキラはしゃべってるけど、アキラ本人の事なんだろうなと俺は思う)、今日の給食はうまかったとか、本当にくだらないけど、妙に楽しい話。 それなのに、話の合間を縫うように突然、昔を思い出させるような事を言い出したら、雰囲気が暗くなるのは当たり前だ。 一年前の日常をふと蘇らせて、みんな表情を曇らせる。 いきなり嫌な事思い出させるなよとか、言ってもいいのかもしれないけどな。俺は言わない。今日は、俺だけじゃなく誰も言わなかった。 本当はあの頃の事なんて思い出したくもないし、マジでムカムカするけどさ。 何となく、あの頃をときどきでもいいから、思い出した方がいい気がするんだよ。俺は。 後ろ向きってわけじゃなくて。あの頃にしがみついた方がいいってわけでも当然なくて。 「ホント、思ってもみなかったよなあ」 ちょっとした沈黙を破って、石田がそう言って、笑う。 「不思議だよね。人生どう転ぶか判らないって言うか」 「十四で人生語るのかお前」 「あはは、おかしいよね確かに」 内村にツッコまれて、森が照れくさそうに笑った。 つられるように、内村の表情も綻んで、深司はまあいつも通り能面みたいなツラしてたけど、アキラもあっさり笑顔に戻ってやがる。俺も、誰にも気付かれないよう小さく吹き出して。 幸せだからな、結局はな。 学校来て、部活して、授業受けて(るフリをして寝る事もあるけどな)、部活して、家帰って。 今はなんでもない、当たり前の日常になってるそんな生活が、一年前は夢みたいで、憧れていた日常だったんだよな。 そんな日々は、橘さんがうちに来てくれて、俺たちがあの時代を乗り越えたから、ここにあるんだ。 そんな大切な事を思い出して、感謝できるってのは、すげえ事なんだと思うわけだよ。俺は。 「……何見てるんだよ」 どうやら俺は無意識に深司を見ていたらしい。深司は眉間に皺を寄せて、能面みたいなツラを崩して、不機嫌そうにぼそりと呟く。 「なんでもねえよ」 どうせ「何わけの判らない事言ってるんだよ」とかってぼそぼそぼやきだすんだろうからな。 ありがとうとかは、絶対に言わねえよ。 |