夏休みを目前にして配られた夏休み中の部の活動予定表を見て、一年あたりはため息を吐いていた。 これから暑くなる一方の気候の中で、学校に通うのと同じ、むしろそれ以上の時間を練習に裂く事を想像して、気力が少しも減らない人間はそう居ない。真田と、スケジュールを立てた柳はその数少ない人種に入ってるが。 とは言えはじめての一年に比べて慣れた三年は気力の減少が圧倒的に少ない。この日は練習がえりにあれ食おう、この日はコレだ、とか計画をこっそり立てている(つもりの。小さく声に出てるから近くに居るヤツには丸聞えだ)ブン太を、ポジティブと言うべきか食い意地が張っているだけと言うべきかは難しいところだ。 どうせその日の気分で適当なモン食うくせに、なんで無駄に計画立てるんだろうな、こいつ。 「ジャッカルー」 「おう」 全国大会までの食いものの予定を立て終わったブン太は、全国大会後、それまでにくらべて練習予定が少ないカレンダーを見ながら(しかも三年はそれも自由参加だ)、シャーペンを取り出した。 「全国終わった次の日、海いこーぜ」 「もうクラゲ出てるんじゃないか?」 「んじゃプール」 「晴れてたらな」 「よし」 ブン太はカレンダーに「ジャッカルとプール」と書き込んで、すぐに次の土曜日から丸々一週間を「いなか」と書いた。どうやら一週間田舎に帰るらしい。 「夏休み中はバイキングいろんなとこでやってんだよな〜。ジャッカル、付き合えよ!」 「おい、またオレかよ!」 「なんだよ、嫌なのかよ。友達がいのねーヤツだな」 いや、バイキング以外なら別に付き合ってやってもいいんだけどな。 バイキングは……ブン太の食いっぷりを見ているだけで胸焼けがするっつうか、腹いっぱいになるっつうか。 「……まあ、一回くらいならな」 「しょーがねーな。もう一回は赤也連れてくか」 俺は日付はいつにするかとも聞かれなかったんだが、ブン太は勝手に開いている日に「ジャッカルとバイキング」と書き込みやがった。 まあ、まだ夏休み後半の予定なんて立ててねえし、日付どころか何ひとつ聞かれなかった赤也よりはマシだよなと自分を慰めてみる事にする。 そんな事をしているうちに、ブン太のカレンダーは部活と遊びの予定でいっぱいになったんだが、さすがに見かねたのか、柳生が口を挟む。 「丸井くん」 「なんだよ」 「そんなに予定ばかり立てて、宿題はどうするんですか。大会が終わるまでは手をつけないでしょう?」 柳生は大会前は練習がハードすぎてそんな事をする余裕もないって意味で言ったんだろうが、練習なんてなくても夏休みが終わる前日まで手をつけねえだろ、こいつは。 「宿題ー? そんなん余裕だって」 「そ……そうですか?」 自身満々に笑って胸を張るブン太に、柳生は何かしらの期待を抱いたみたいだ。変に素直なヤツだ。 「おう! ちゃんと写させてもらうからな! ジャッカルに!」 「おい、オレかよ!」 「おう!」 びし、とツッコミを入れると、ブン太は悪びれもなく笑った。 ……駄目だな。ここで拒否をしたとしても、こいつは夏休みの終わりにうちに突入して、宿題写しをするに違いない。 何が腹立つって、ここで柳生とかを狙わずに俺を狙うところだ。宿題の正答率のリアリティを出そうとしているんだろう。 「ところでよ、ジャッカル」 「なんだよ!」 「前から思ってたんだけど、『おい、オレかよ!』って、お前の口癖なの?」 俺の気持ちが判っているのか居ないのか、にっかり笑ってそんな事言いやがって。 「お・ま・え・の! せいだろう! が!」 し返しとばかりにブン太のヤツを絞めてやったんだが。 その時柳生に向けられた哀れみの視線のせいで、ちっとも気分は晴れなかったな。 |