一日に何回、日によっては何十回もバネさんに蹴られているから、俺が傷付かないとでも思ってるんだろうか。 「ダビデのお顔は怖いのよね」 「そんなんじゃ、女の子にもてないよ〜」 そう言って俺の顔をぶにぶにいじくったかと思うと、大笑いして去っていった女の子たち(推定年齢十歳弱)は、たぶん、サエさんかバネさんあたりが目当でウチに通ってるんだろう。あのふたりは文句無しに人当たりがいいから。サエさんは表面だけかもしれないけど。 俺は別に剣太郎ほどにはこだわりがないから、女の子にもてないとか言われたところで少ししか傷付かない。そりゃあ少しは傷付くけども、実際俺の顔が女子にそれなりにウケがいい事は自分で判っているから、落ち込むほどではない。と言うかそもそも年齢一ケタの女の子にウケて喜ぶような趣味じゃないし、俺。 けど。 顔が怖いとか言われて笑われるのは、少し悲しいかもしれない。 「おうダビ! 何ひとりでたそがれてんだ!」 俺の首の後ろを軽く蹴ったのは、たぶんバネさんの膝。何度も蹴られてるから、感触で判る。 「たそがれてるわけじゃ……」 と否定してみようかと思ったけど、俺は気付けば波打ち際で膝抱えてしゃがみこんでいて、どこからどうみてもたそがれているなと思ったら否定できなかった。 「ん? どうした?」 バネさんは俺の隣に同じようにしゃがみこんで、俺の顔を覗き込む。 目線合わせるなんて、ガキ扱いすんなよ、とか。 言ったら「そう言うところがガキなんだろうが」とか言い返してくるから、言わない。 バネさんからしてみたら、俺も、いま剣太郎と樹っちゃんに突撃しているガキたちも、きっと同じなんだ。たぶん。 「さっき」 「おう」 「顔が怖いって言われて笑われた」 「ああ、確かに怖ぇもんな、お前の顔!」 きっぱり言いきるし。 俺、それが原因でちょっと落ち込んでるんだけど。 判ってんのか判ってないのか、バネさんはにいぃーって笑う。 「お前は生まれ付き目付きが悪ぃからな。まあそれはハンデかもしれねーけど、俺だってガキどもにもてるために地道な努力があるわけよ。だからお前も努力すりゃあ、俺みたいにガキどもにもてるって」 どんな努力をしてるんだよって珍しく俺がバネさんにツッコんでみようかと思ったけど、なんか話がどんどんずれそうだからやめといた。 「……べつにガキどもにもてても嬉しくないけど」 「なんだー? お前も剣太郎みたいな事言い出す気かー? 怖くてもいい顔してんだから、黙ってりゃもてんだろ」 「いやべつにそれもちがくて」 ツッコまなくてもずれた。じゃあやっぱり、ツッコんどけばよかったかな。 ふう、と小さくため息を吐く。 別にどうしようもなく悲しいとか、寂しいとか、そう言うわけじゃない。いつも言われてる事だし、自分で判ってるし、なんで今日に限っていつもより少し傷付いたのかって言うと、自分でも判らないけど。 「俺は、お前が顔が怖くてもいいヤツだって知ってるぜ?」 それまで、顔全体で力一杯笑ってたバネさんが、急におとなしめの、何て言うか柔らかい感じの微笑みになって、そんな事を言い出す。 「うぃ?」 「たぶん、ここにいるヤツらみんなもな。それでいーんじゃねーの?」 うん。 それでいい事は判ってたし、判ってたけど、判っていて、でもなんか悲しかった。だからバネさんの優しい言葉は、何の意味もない。 なかった、はずなんだけど。 「……うぃ」 やっぱり何か、意味はあったみたいで、気付けば気持ちはスッと軽くなってた。 |