ダビデは海辺に立ち尽くして、半分くらい海の向こうに沈んだ夕日をじっと眺めていた。 実際のところはどうなのかってのをそこら辺においといて、黙っていればなんとなく賢そうに見えるこいつが、夕日を浴びながら遠くの一点を黙って見つめていると言うのは、妙に絵になる。 なるんだが、 「海はいいな、バネさん」 「おう、そーだな」 「でも俺は、スキーもスキ」 口を開けばもちろん、幻の賢さなんてどこかに吹き飛んじまうわけだ。 ダビデがプッ、と吹き出すとほぼ同時に、俺はダビデの後頭部に回し蹴りをかます。軸足が海水で湿った砂にとられたせいで会心のできとまでは言えなかったが、充分に上手く入ったようで、ダビデは頭を抑えながら小さくうなった。 まったく。よくもまあ飽きもせずにダジャレばっかり言ってられるよな。そのしょうもないところに一生懸命なのは、少し褒めてやるべきなのかもしれねえけど。 「お前はほんと、すげーよな」 「確かに、俺は天才かもしれない。天才な俺のネタはもちろん、無断転載禁止……プ」 「だからおもしろくねえって! 大体自分で天才とか言うな!」 頭ばっかり蹴ってたら、もっとバカになるかもしれねえなと思ったんで、ちょっと遠慮して背中を蹴り飛ばす。 ……なんで俺がそんな事に気を使ってやってるんだ? 「テンサイはテンサイでも、天の災害の方の天災だろ、お前は」 「おお。バネさん、うまい」 ぱちぱちぱち、とダビデは小さく拍手する。 そんな事を、しかもダビデなんかに褒められたところで、ちっとも嬉しくねえけどな。むしろ同類にされたみたいでショックだ。 「お前の言う事も間違いねえよ。お前は確かに天才だ。あんなにつまんねーダジャレを無限に産み出せるなんてな」 ダビデは体ごと俺に振り返り、うらみがましそうな目で俺を見上げる。 なんだ。また「俺のダジャレはつまらなくない」とか言うのか。 それとも「俺のダジャレをつまらないと言うのはダレジャ」とか言うのか? そしたらまたばっちり蹴り入れてやる。覚悟しろよ。 「バネさん」 「おう、なんだ」 「そんな事を言っちゃ駄目だ」 「……おう?」 今、ダジャレ入ってなかったよな? 入ってたらこいつ、自分で笑うもんな。大丈夫だよな。 こいつ。マジメなツラしてマジメっぽい事言いやがって。ヘンなところでびびるじゃねえか。勘弁してくれよ。 「言霊、ってあるだろ」 「聞いた事はあんな。けっきょくどんなもんなんだ?」 「……」 おいおい。黙るな黙るな。本当はちっとも判ってないんだろお前。 上手く説明しろとまでは言わねえけど、そんな意味も判らないもん、話題にとりあげるなっつうの。 「とにかく、言葉には力があるから」 適当にごまかしやがったな。 「バネさんがつまらないってずっと言ってたら、俺のダジャレが本当につまらないものになっちまう」 ふい、と、ダビは俺から顔を背けた。 赤い光を浴びて少しだけ赤く染まった瞳で、同じように赤みを増した海を眺める。 「……ダビデ」 俺は小さく笑って、一歩だけダビデに近寄った。 そうしてもダビデが海から目を反らさない事を確かめ、それから、 「俺がどうしようとお前のダジャレは元々つまらねえっつうの!」 思う存分蹴り入れて、ダビデを海にたたっこんだ。 めちゃめちゃ浅いところだったから底に顔をぶつけたのか、単に海水に打ちつけられた時に痛かったのか、ダビデは鼻のあたりを痛そうにさすりながら立ち上がる。 こいつの、何度蹴られてもへこたれないタフなところも、もしかしたらすげえところかもしれないとは思うんだけどな。 |