気持ちが判らない事もないんだけど、ケーキにフォークを入れるだけって言っちゃえばそれだけの事に、やたら構えるところが、南だなあと思う。 明らかにひとりで食べるサイズじゃないホールのケーキを相手に無駄に緊張しながら、まずひとくち。 なんかさ、俺もやっぱ、嬉しいわけよ。 南の好きなものって言ったら俺、コロッケとおにぎりしか知らないから、南がどんなケーキが好きかなんて判らなくて、とりあえず丸ければいいやって買ってきた普通(いや、大きいんだけどさ)のショートケーキなわけ。イチゴと生クリームにチョコレートでできたプレートが乗ってるだけのさ。 それをそんな、美味そうに食べられたら、こっちも小遣いはたいたかいがあるってもんだよ、うんうん。 「そんな、美味くないでしょ。それ」 「いや、美味いぞ」 「またまた〜。俺の手作りじゃないんだから、お世辞じゃなくてホントの事言っちゃっていいんだよ?」 「いや、お前の手作りだったら、間違いなくまずいから」 あらら。言ってくれるね南くん。 まあ確かに、俺の手作りのケーキってまずそうだけどさ。そもそもケーキと呼べるものが出来上がるかどうかが怪しいよなあ。いやいや俺の事だから、ラッキーでケーキっぽいものができちゃうかもだけど! 「ところで、フォークって一本しか持ってないわけじゃないよな?」 ふたくちめを食べるために、フォークをケーキに近付けてから、南はそんな質問を俺に投げかけてくる。椅子に黙って座ってるのがつまらなくて、テーブルの上に座っている俺を、上目使いに見上げながら。 「もちろんあるけど。何さ、南ってば、そんなに俺と間接チューするのが嫌なの?」 俺がポケットからもう一本のフォークを取り出しながら言うと、南はすっごいげんなりした顔をした。 「……気にしてなかったけど、そう言う言われ方をすると、ものすごく嫌な気がしてきたな」 「南ってけっこうケッペキなんだねぇ」 「いやだから、俺が潔癖なんじゃなくて、お前の言い方が嫌なだけだっつうの」 少しふてくされたような顔をして、南は俺の手の中にあるフォークを奪い取る。 包んであるビニールを破って、柄の部分だけ取り出して、俺に差し出してくる。 「ほら」 え? 「食えよ、お前も」 でも。 「南が食べたいだけ食べてからでいいよ。南のための誕生日ケーキなんだし」 まあね。そりゃね。おこぼれをもらう気は満々だったけどさ。このケーキ全部食べ尽くせるほど南は甘いもの好きじゃないと思うし。部活のあとで俺も腹減ってるし。 でもせっかくの誕生日祝いなんだから、やっぱ主役が思う存分やってからじゃないと、ねえ? 「言ったろ。俺はホールケーキに直接フォーク入れてみたいけど、別に全部食べたいわけじゃないって」 「言ってたけど」 「お前だって言ってたじゃんか。ホールケーキに直接フォーク入れるの、やってみたいって」 「言ったけど」 「じゃあ、やれよ」 なんでか。 南に押し切られるような形で、俺はフォークを受け取ってしまった。 スルリ、とビニールからフォークが全部抜けると、南はふわって柔らかく笑って、ビニールを丸めて、近くに置いてあったゴミ箱に放る。あ、上手い。ギリギリ入った。 「こう言うのはさ、やっぱ」 「うん」 「ひとりで食うより、ふたりで半分ずっこして食う方が、美味いだろ」 「……うん」 俺は頷いてから、ケーキにフォークをぶっさした。 それを確かめてから、南もふたくち目を口に入れる。 ちぇー。 なんだよなんだよ、南ってば。南の誕生日に、俺が南にプレゼントしたってのにさ。 これじゃ、俺の方がたくさんもらっちゃってる感じじゃんか。 |