部長が来るまで一年もコート使っていいよ、なんて大石が言っちゃうもんだから、今年入ったばかりのちびっこい新入生たちは、嬉しそうにはしゃぎながら次々とコートの中に入ってく。 それを大石はなんだか楽しそうに微笑んで見守っちゃったりして。 ちぇー。 「一年にもコート使わせちゃったら、俺たちレギュラー陣の練習する場所なくなっちゃうじゃん。一年、わらわら多いんだしさ」 俺が本音を少しも隠さずに愚痴言うと、大石は微笑みはそのままで俺に振り返る。 「そう言うな。部活動はレギュラーだけが練習する場所じゃないんだ」 絶対言うと思った。 判ってるよそんくらい。判ってても思っちゃうんだからしょうがないじゃん。 「一番手前のコートはレギュラー陣用にキープしてあるしな。手塚が来るまでレギュラー陣は全員このコートでスマッシュ練習だ」 どうせそんなふうに、ちゃっかり抜け目がない事してるだろうと思ったし。 ま、いっか。手塚だって一時間も遅れてこないだろうし。俺、スマッシュ練習けっこー好きだしさ。 「それに」 ん? まだなんか続くの? 「ネットを挟んで対峙したり、まだ名前も知らない子のプレイを見たり。そう言うのって案外重要じゃないかと思うんだよ、俺はさ」 ……そっかなー。 俺らも一年の頃、たまにコート使わせてもらったりしたけどさ、コートでプレイできるのは楽しかったけど、対戦相手とか他のヤツのプレイとか、けっこーどうでもよかった気がするけど。 「まだ知らない存在と出会う。それによって、あの中に居る誰かの運命が変わるかもしれないだろ?」 「運命って! 大石、それ大げさすぎだって〜!」 ほんの数十分の自由時間に運命とか語りだすのは、それどうなの大石。 まあ大石だしな。あと、乾とかも、他のヤツのプレイじっくり見て研究とかしてそうだし、大切な時間だったのかもしれないけど。 それにしてもやっぱり運命は大げさだよな〜。 「大げさかな?」 大石は眉間にちょっと皺寄せて、考え込む。 「大げさだって! 絶対!」 「……だけどな、英二」 笑う俺に、大石は真剣な顔して向かい合う。 「俺たちが一年の時、やっぱりこう言う時間の中で、俺はひとりの同級生の挑戦を受けた」 へー、大石みたいな地味なプレイヤーにわざわざ挑戦するヤツって居るんだ! 手塚とか不二とかはあの頃から目立ってたし、すっげー挑戦したいなって思ったけど。ってか、倒してやりたいって思ったけど。 「彼は俺の事嫌ってたようだし、クラスも違っていたから、俺はかろうじて彼の名字を覚えているくらいで、話した事もほとんどなかった」 へー、大石って、嫌われる事あるんだ! 珍しいヤツも居るもんだな〜。 「だから俺はその試合ではじめてその子のプレイスタイルを間近で見たんだけど、すごく惹かれたよ。強気で攻撃的で、観客を引きつけるプレイスタイル。俺には無いものばかりを持つ彼と組めば、お互いの足りない所を補いあって、そして更にお互いの長所を伸ばして、強くなれるって確信した」 へー……って、あれ? なんか俺、今更ながらにその光景を知っているような気がしてきたんだけど。 「そんでそのふたりは、一年後には全国に行けるほどのダブルスプレイヤーになって?」 恐る恐る、俺が言う。 「不動のダブルス、青学ゴールデンペアと呼ばれるようにになりました、とさ」 大石は微笑みを更に柔らかくして、一年たちを見つめる。 「ちっとも大げさなんかじゃないだろ?」 そんな言い方されると、ここで素直に認めちゃうのは、なんかちょっと悔しい気がするんですけどー。 まあ、しゃーないか。 大石の言ってる事が正しいってのは、認めなきゃだもんね。 |