「なあ……ボッスン?」
 ヒメコが恐る恐る声を掛けたのは、夕方のことだった。
「ん?」
 振り返ると、眉を寄せて神妙な表情をしたヒメコが立っている。
「スイッチからの伝言、らしいねんけど。」
 伝言なら伝言で、普通に伝えればいいじゃないか、とボッスンは考える。
 それとも、何かよほど伝えにくいような話なのか。
 廃部は回避したはずだし、心配といえば美咲の病気だが、それも今は問題ないと聞いている。
 ヤバ沢さんの姿も見えないし、ヤバいこともたぶんないだろう。

「伝言て?」
「とげとげの呪い……らしいねん。」
「とげとげの……呪い!!!」
 こくりと頷くヒメコ。
「それ……何?」
「分からん。」

 なるほど。
 ボッスンは理解する。
 何だか意味の分からない伝言だったから、あんな微妙な表情だったわけか。
 微妙な表情するのは、自分だけじゃなかった。
 ボッスンは少しだけ安心した。
 だがそれでは解決にならない。

「スイッチは他に何か言ってなかったのか?」
「いや、それが。」
 ヒメコは直接スイッチから言付かったわけではない、という。
 モモカがスイッチから預かった伝言を、ヒメコが代理で持ってきたという話である。
「要するに、スイッチから鬼姫、鬼姫からヒメコってことか。」
「……うん。」
 上目遣いで不安げなのは、やはり意味不明の伝言を持ってきてしまった気後れからだろう。
 ヒメコはこう見えてかなり律儀である。

「……ちょっと待ってろ。」

 何かこんなところで使う能力でもないよな、と思いつつ。
 ボッスンはゴーグルを下ろした。

 考えろ。
 考えろ。
 とげとげの呪い。
 ヒメコ。
 モモカ。
 スイッチ。

「……なるほどな。」

 すっと一筋の光が差す。
 俺はおかしいんじゃないか、と思うほどの閃き。

「分かったんか、ボッスン!」

 きらきらと嬉しそうな目をしたヒメコは、案外かわいいと思う。
 まあ、それはどうでもいい話だが。

「今、流れ図、書くから、ちょっと待て。」
「流れ図って!流れ図って何!これ、SSやろ!文章で説明しいや!」

 ヒメコのツッコミを軽く受け流し、ルーズリーフを引っ張り出すボッスン。
 大きな文字で、三行、こう書き付けた。


ヒメコ  とげとげの呪い

モモカ  呪い とげとげ

スイッチ 祝い wwww


「どうだ?」
「分からんわ!これ何!」
 ヒメコが暴れようが、ボッスンは動じない。

「鬼姫はスイッチが、『呪ってやろう』とか『とげとげ』とか言ってた、って言ったんじゃねえのか?」
「そういえば……そんな感じやったな。」
「スイッチは多分、『祝ってやらねばなるまいな』と言ったはずだ。」
「ん?」
「それを鬼姫が読み間違えた。その読み間違えに気づいて、スイッチは多分、『wwww』と笑ったに違いない。それを見た鬼姫は『とげとげだ!』と思った。」
「……それって。」
「要するに、この伝言は、『SKET DANCE』一巻発売を祝おうぜ、っていうスイッチの伝言だった、ってわけさ。」

 ヒメコは、うーん、と天井を見あげた。
 そして、うーん、と床を見下ろした。
 それを繰り返すこと、五回。

「……スイッチは合成音声でしゃべってる設定やん?」
「いつもそうだろ。」
「だったら、何で読み間違えんねん!!!そもそもあいつは、『wwww』って言ってるとき、どんな合成音声出してんねん!!!」

 がしゃん!
 と、ヒメコが机を叩く。
 だが、まあ、それも含めて、スケット団は普段通り。
 明るく楽しく逞しく。
 スケット団の活躍は、今日も明日も明後日も、楽しく続くのであった。


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