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| 石田と森が全員分の皿を台所に下げて。 入れ替わるように、杏と神尾がお盆に載せた人数分のプリンを運んでくる。 そして、始まるデザートタイム。 「すげぇな。デザートまであるのかよ。」 黒羽はいちいち感激してくれて。 ちょっとだけ一同を面はゆい気持ちにする。 「プリン作れるなんて、マジで偉いよな。」 「作ったことないか?」 「ないっての。こんなすごい料理!」 感動しきりの黒羽に、桔平は小さく笑って。 「こんなモノでそこまで感激されちゃ、みんな、面食らっているぞ。」 一同を見回す。 確かに面食らっているのも本当だけども。 黒羽の喜びようが嬉しいのも本音で。 「もしかして橘も作れるのか?」 「レシピがあれば。」 「……やっぱ、元九州二強は違ぇな。」 「……元九州二強は関係ないだろうが。」 別に料理の腕で九州二強の名を勝ち取ったわけでもないのだから、そんな変なところで褒められちゃ、喜びたくても喜べない。 桔平の複雑な表情を見ながら、伊武は、もう少し料理に参加しておけば良かったかな、と思った。そうしたら黒羽さんの感謝をもっと素直に受け取れたのに。自分は何もやってないし。買い物にもついていっただけ。まぁ、別にやりたかったわけでもないけど。なんか。天根と同じ立場なのはむかつくし。 「美味ぇな。」 「プリン、好きなのか?」 「結構、好きだな。ダビも好きだしな。」 「うぃ!」 スプーンをくわえて二人の会話を聞いていた天根が、嬉しそうに間髪入れず返事をする。 なんでこんなにこいつは脳天気なんだろう。料理が上手いわけでもないし、かといって雑用ができるわけでもない。もう少し肩身の狭い思いをしてみたらどうなんだろう。苦労とかストレスとか、感じられるほどの繊細さもないのかな、こいつ。 伊武はそこまで考えてから、首を振る。 別に……俺だって、後ろめたかったり、肩身が狭かったりしているわけじゃないし。何もいらいらする必要、ないだろ。だいたい、天根なんか関係ないじゃん。 「二人とも好きなのか。覚えておこう。」 「ん?作ってくれんのか?」 「……その気になればな。」 杏がにこにこしている。 まぁ、橘さんが選ぶなら良いんじゃない?誰が相手でも。黒羽さんは確かに良さそうな人だし。別に嫌いじゃない。 「でも、これほど美味いかどうかは、保証しない。」 「ん?」 「好きなやつの作った料理は格別に美味く感じるらしいからな。お前は後輩の作った料理の方が、俺の作った料理よりずっと美味く思うだろう?後輩大好きだからな。黒羽は。」 「あー。」 からかうように、桔平が黒羽を言いこめてやれば。 言いこめられた様子もなく、黒羽が返す。 「俺、橘サンのコトも大好きだから、大丈夫じゃねぇの?」 桜井が勢いよく咽せた。 あーあ。何かな。もう、いやになっちゃうな。桜井も意識しすぎだよ。どうでも良いじゃん。黒羽さんが橘さんのこと好きなくらい、みんな知ってるっての。 伊武はそこまで考えて、ようやく、自分が全くプリンを食べていないコトに気付く。 あ。喰わなきゃ。 嫌いなわけじゃないし。みんなが作ったんだし。残しちゃ悪い……かもしれないし。 だけど。 カレーも大盛りだったし。誰だよ。よそったの。俺が石田と同じ量って、絶対、オカシイだろ。喰えるわけないだろ。喰ったけど。おかげでお腹いっぱいだし。プリン、甘いしな。絶対、多いよ。これ。 伊武の脳内大会議場では、百五十人の脳内伊武深司が一斉にぼやき始めていた。 「深司?」 そっと森が声を掛ける。他の連中に聞こえないくらいの低くて小さな声で。 伊武の脳内大会議場は、一時的にぼやき大会を中断した。 「何?」 「食べきれない?」 そういや、プリン責任者は森なんだっけ。アキラとかが責任者なら、別にどうでも良いけど。そっか。森だったっけ。ってか、プリン責任者って言葉がオカシイよな。ありえないよな。命名したのが杏ちゃんだから許すけど。これでアキラか天根が命名したんだったら、絶対、ぼやくよ、俺は。 と、そこまで考えて、伊武は口を開く。 「……食べる。」 その言葉にほっとしたように、森は小さく微笑み。 さらに低い声で続けた。 「たぶん、残ったら、天根が食べてくれるよ。」 ふと、天根の皿を見れば、もうすっかり空になっていて。 寂しそうにスプーンをくわえている。 伊武は森と天根を一瞬、見比べて。 一口、ぱくりと食べると。 「……。」 天根の前にプリンの皿を押しつけた。 「……?!」 びっくりして、プリンと伊武を交互に見る天根。皿を押しつけたまま、ついと目をそらす伊武。 間で森はにこにこ微笑んで。 「深司が食べきれないから、天根、食べてって。」 「……ありがとう!」 「別に食べきれないわけじゃないけど、あんな欲しそうな顔しているから、しょうがないから、分けてやるだけ。だいたい、大人げないよな。スプーンくわえてしょんぼりして。何のつもりだか知らないけど、小学生じゃないんだし……ぼそぼそ。」 伊武の脳内大会議場で、ぼやき大会が再開された。しかも今回は音声付きである。 天根は瞬く間にプリンを平らげた。伊武のぼやきなど、何のそのである。 強くなったな。天根!と、桔平は褒めてやりたい気がした。それは強くなったわけじゃなくて、単に目先の食べ物に心奪われているだけだ、と黒羽は横で心密かに思った。 「……みんな、料理した。俺と、伊武……料理してないけど。」 最後の一口を味わって。 天根がゆっくりと発言した。自分から発言するコトなど滅多にない天根だったから、みな、他の人との会話を打ちきって、天根に目を向ける。 「……伊武はプリンくれた。」 プリンをくれたのと料理したのは同じ重さなのかどうか、ちょっとだけ、伊武は疑問に思ったが、その辺は突っ込まないでおいた。 「……俺、何もしてない。だから……皿、洗う。」 その言葉に。 伊武の脳内大会議場は、水を打った様に静まりかえった。 それから。 「ばかじゃないの?天根。別にプリンとか関係ないだろ。だいたい、あんなたくさんの皿とか鍋とか、お前一人に任せられるわけ、ないだろ。一人でできるとでも思ったわけ?ばかなんじゃない?ホントに。」 低く、ぼやいて。 なんだよ。何、一人でやる気でいるんだよ。ばかだな。絶対。別に、そんなつもりでプリンやったんじゃないんだし。いやになるな。働いてないのはお前だけじゃないだろ。 「深司も一緒に皿洗ってくれるって。良かったね、天根。」 森が横から通訳するのを、邪険に遮りながら。 すっと立ち上がると。 「行くぞ。」 天根の首根っこを掴んで、伊武は台所に歩き出す。 「わ……手が滑って……さらわれる……!!」 「何なの?それ。皿が割れるのと、攫われるのとをかけているわけ?意味、分からないんだけど。だいたい、人様の家の皿洗うんだから、絶対、割るなよ。分かってんのか?お前。」 「うぃ!」 台所に消えていくダジャレとぼやきを聞きながら。 桔平は思った。 コトの顛末を満足そうに見守っている内村は。 果たして、何か働いていたんだろうか、と。
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