友情☆スイーツ。

 石田と森が全員分の皿を台所に下げて。
 入れ替わるように、杏と神尾がお盆に載せた人数分のプリンを運んでくる。
 そして、始まるデザートタイム。

「すげぇな。デザートまであるのかよ。」
 黒羽はいちいち感激してくれて。
 ちょっとだけ一同を面はゆい気持ちにする。
「プリン作れるなんて、マジで偉いよな。」
「作ったことないか?」
「ないっての。こんなすごい料理!」

 感動しきりの黒羽に、桔平は小さく笑って。
「こんなモノでそこまで感激されちゃ、みんな、面食らっているぞ。」
 一同を見回す。
 確かに面食らっているのも本当だけども。
 黒羽の喜びようが嬉しいのも本音で。

「もしかして橘も作れるのか?」
「レシピがあれば。」
「……やっぱ、元九州二強は違ぇな。」
「……元九州二強は関係ないだろうが。」

 別に料理の腕で九州二強の名を勝ち取ったわけでもないのだから、そんな変なところで褒められちゃ、喜びたくても喜べない。
 桔平の複雑な表情を見ながら、伊武は、もう少し料理に参加しておけば良かったかな、と思った。そうしたら黒羽さんの感謝をもっと素直に受け取れたのに。自分は何もやってないし。買い物にもついていっただけ。まぁ、別にやりたかったわけでもないけど。なんか。天根と同じ立場なのはむかつくし。

「美味ぇな。」
「プリン、好きなのか?」
「結構、好きだな。ダビも好きだしな。」
「うぃ!」

 スプーンをくわえて二人の会話を聞いていた天根が、嬉しそうに間髪入れず返事をする。
 なんでこんなにこいつは脳天気なんだろう。料理が上手いわけでもないし、かといって雑用ができるわけでもない。もう少し肩身の狭い思いをしてみたらどうなんだろう。苦労とかストレスとか、感じられるほどの繊細さもないのかな、こいつ。
 伊武はそこまで考えてから、首を振る。
 別に……俺だって、後ろめたかったり、肩身が狭かったりしているわけじゃないし。何もいらいらする必要、ないだろ。だいたい、天根なんか関係ないじゃん。

「二人とも好きなのか。覚えておこう。」
「ん?作ってくれんのか?」
「……その気になればな。」
 杏がにこにこしている。
 まぁ、橘さんが選ぶなら良いんじゃない?誰が相手でも。黒羽さんは確かに良さそうな人だし。別に嫌いじゃない。
「でも、これほど美味いかどうかは、保証しない。」
「ん?」
「好きなやつの作った料理は格別に美味く感じるらしいからな。お前は後輩の作った料理の方が、俺の作った料理よりずっと美味く思うだろう?後輩大好きだからな。黒羽は。」
「あー。」
 からかうように、桔平が黒羽を言いこめてやれば。
 言いこめられた様子もなく、黒羽が返す。
「俺、橘サンのコトも大好きだから、大丈夫じゃねぇの?」

 桜井が勢いよく咽せた。
 あーあ。何かな。もう、いやになっちゃうな。桜井も意識しすぎだよ。どうでも良いじゃん。黒羽さんが橘さんのこと好きなくらい、みんな知ってるっての。
 伊武はそこまで考えて、ようやく、自分が全くプリンを食べていないコトに気付く。
 あ。喰わなきゃ。
 嫌いなわけじゃないし。みんなが作ったんだし。残しちゃ悪い……かもしれないし。
 だけど。
 カレーも大盛りだったし。誰だよ。よそったの。俺が石田と同じ量って、絶対、オカシイだろ。喰えるわけないだろ。喰ったけど。おかげでお腹いっぱいだし。プリン、甘いしな。絶対、多いよ。これ。
 伊武の脳内大会議場では、百五十人の脳内伊武深司が一斉にぼやき始めていた。

「深司?」
 そっと森が声を掛ける。他の連中に聞こえないくらいの低くて小さな声で。
 伊武の脳内大会議場は、一時的にぼやき大会を中断した。
「何?」
「食べきれない?」
 そういや、プリン責任者は森なんだっけ。アキラとかが責任者なら、別にどうでも良いけど。そっか。森だったっけ。ってか、プリン責任者って言葉がオカシイよな。ありえないよな。命名したのが杏ちゃんだから許すけど。これでアキラか天根が命名したんだったら、絶対、ぼやくよ、俺は。
 と、そこまで考えて、伊武は口を開く。
「……食べる。」
 その言葉にほっとしたように、森は小さく微笑み。
 さらに低い声で続けた。
「たぶん、残ったら、天根が食べてくれるよ。」

 ふと、天根の皿を見れば、もうすっかり空になっていて。
 寂しそうにスプーンをくわえている。
 伊武は森と天根を一瞬、見比べて。
 一口、ぱくりと食べると。
「……。」
 天根の前にプリンの皿を押しつけた。
「……?!」
 びっくりして、プリンと伊武を交互に見る天根。皿を押しつけたまま、ついと目をそらす伊武。
 間で森はにこにこ微笑んで。
「深司が食べきれないから、天根、食べてって。」
「……ありがとう!」
「別に食べきれないわけじゃないけど、あんな欲しそうな顔しているから、しょうがないから、分けてやるだけ。だいたい、大人げないよな。スプーンくわえてしょんぼりして。何のつもりだか知らないけど、小学生じゃないんだし……ぼそぼそ。」
 伊武の脳内大会議場で、ぼやき大会が再開された。しかも今回は音声付きである。

 天根は瞬く間にプリンを平らげた。伊武のぼやきなど、何のそのである。
 強くなったな。天根!と、桔平は褒めてやりたい気がした。それは強くなったわけじゃなくて、単に目先の食べ物に心奪われているだけだ、と黒羽は横で心密かに思った。

「……みんな、料理した。俺と、伊武……料理してないけど。」
 最後の一口を味わって。
 天根がゆっくりと発言した。自分から発言するコトなど滅多にない天根だったから、みな、他の人との会話を打ちきって、天根に目を向ける。

「……伊武はプリンくれた。」
 プリンをくれたのと料理したのは同じ重さなのかどうか、ちょっとだけ、伊武は疑問に思ったが、その辺は突っ込まないでおいた。

「……俺、何もしてない。だから……皿、洗う。」

 その言葉に。
 伊武の脳内大会議場は、水を打った様に静まりかえった。
 それから。
「ばかじゃないの?天根。別にプリンとか関係ないだろ。だいたい、あんなたくさんの皿とか鍋とか、お前一人に任せられるわけ、ないだろ。一人でできるとでも思ったわけ?ばかなんじゃない?ホントに。」
 低く、ぼやいて。
 なんだよ。何、一人でやる気でいるんだよ。ばかだな。絶対。別に、そんなつもりでプリンやったんじゃないんだし。いやになるな。働いてないのはお前だけじゃないだろ。
「深司も一緒に皿洗ってくれるって。良かったね、天根。」
 森が横から通訳するのを、邪険に遮りながら。
 すっと立ち上がると。

「行くぞ。」
 天根の首根っこを掴んで、伊武は台所に歩き出す。
「わ……手が滑って……さらわれる……!!」
「何なの?それ。皿が割れるのと、攫われるのとをかけているわけ?意味、分からないんだけど。だいたい、人様の家の皿洗うんだから、絶対、割るなよ。分かってんのか?お前。」
「うぃ!」

 台所に消えていくダジャレとぼやきを聞きながら。
 桔平は思った。
 コトの顛末を満足そうに見守っている内村は。
 果たして、何か働いていたんだろうか、と。


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